皆さまこんばんは。
明朝体にて失礼いたします、阪南市民病院 総合診療科の北和也と申します。
昨日は人生初のブログということで舞い上がり、よくわからないテンションになっていたことを謹んでお詫び申し上げます(特に、すぺぺぺ…のくだりは大変失礼いたしました。お恥ずかしい限りです)。
さて、昨日の続きです。
Brugada症候群についてはBrugada先生らが書いた下記に詳しく記載されております。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1517/
これによると、誘発因子として“発熱”がしっかり挙げられております。
つまり、ふだん正常心電図でも、発熱などでBrugada型心電図が顕在化し、さらに致死的不整脈を引き起こす可能性があるのです。
ですので、『一過性の心電図変化だし、何も起こらなかったからいいんじゃないの?』と気楽に構えることはご法度です。
ここには、Brugada型心電図が記録され、かつ以下の少なくとも1つを認めればBrugada症候群を強く疑うべきであるとの記載がありました。
①VFが記録された、②自己停止する多形性心室頻拍、③心原性突然死の家族歴、④coved型心電図の家族歴、⑤電気生理学的検査で誘発される、⑥失神または夜間死戦期呼吸
とくにcoved型の場合には、遺伝子診断されていなくても、上記1項目を満たせば診断確定とのことです。
なぜSaddle-back型よりもcoved型の方が?という問いに対しては、日本循環器病学会の『心臓突然死の予知と予防法のガイドライン(2010年改訂版)』に記載があり、『心電図で0.2mV以上の自然発生のcoved型ST上昇を示す例は、6%/年で心事故を生じると報告されている。有症候群にはcoved型が有意に多く認められることから、saddle-back型よりも危険が高いと考えられている』とのことです。
また、ここには『我が国における“ぽっくり病”に合致すると考えられている』と書かれていました。“合致する”は、さすがに言いすぎではないかと思います。
Brugada先生は、以下のように要約していました。
<疾患の特徴>
◆Brugada症候群は心臓の伝導障害(V1-V3のST異常や心室性不整脈のリスクが高い)が特徴的であり、突然死を起こしうる。
◆Brugada症候群は主に成人で発症するが、生後2日~85歳の間で診断される。
◆突然死の平均年齢は40歳前後である。
◆乳幼児突然死症候群(SIDS)や東南アジアでよくみられる夜間突然死症候群(SUNDS)の原因かもしれない。
◆他の伝導異常として、Ⅰ度房室ブロック、心室内伝導遅延、右脚ブロックおよび洞不全症候群を合併しうる。
<診断・検査>
◆診断は臨床所見に基づく。
◆8つの遺伝子の変異(SCN5A、GPD1L、CACNA1C、CACNB2、SCN1B、KCNE3、SCN3B、HCN4)が、Brugada症候群の原因として知られている。
◆8つの遺伝子のすべてが分子遺伝子検査にかけることができる。
<マネージメント>
◆症状に対する治療:失神や心停止の病歴があればICDを。
◆electrical stormがあればイソプロテレノールを。
◆一次予防にはキニジン(1-2 g daily)。無症候性の場合の治療はcontroversial。
<サーベイランス>
◆Brugada症候群の家族歴を持っているリスクある人は、心電図モニタリングを1-2年毎に一度行う。
<避けるべき薬や状況>
◆高熱、麻酔、抗うつ薬、Naチャネル遮断効果のある精神病薬。
<リスクのある家族の評価>
心電図を使って特定したり、(もし遺伝子変異のある家族がいるなら)分子遺伝子検査をしたりすると、予防措置につながったり誘発しうる薬の回避につながる。
<遺伝子カウンセリング>
◆Brugada症候群は常染色体優性遺伝である。
◆Brugada症候群の患者の親は、ほとんどが罹患している。
◆新たな遺伝子変異により発症するケースは1%と推定されている。
◆Brugada症候群の変異遺伝子は、子の50%に引き継がれる。
◆家族に変異がある場合、リスクの高い妊婦に対して出世前診断が可能である。
要約は以上ですが、Brugada型心電図を顕在化するリスク因子として、発熱のほか、コリン作動薬?(Vagotonic agents)、αおよびβ作動薬、三環形抗うつ薬、第一世代抗ヒスタミン薬(dimenhydrinate)、コカインがあり、クラスIC抗不整脈薬(フレカイニドやプロパフェノンなど)、クラスIA抗不整脈薬(プロカインアミドやジソピラミドなど)という記載がありました。
風邪ひいて熱出たら発作、鼻炎で抗ヒスタミン薬飲んだら発作だなんて、世の中生きづらすぎやしませんか。
この方はアトピー性皮膚炎でしたので、かゆいかゆいと近所の病院にかかって、とりあえずてきとーに抗ヒスタミン薬の点滴とかされそうで怖いです。総合感冒薬出されるのも怖いかもしれません。
風邪ひいたらとりあえず熱出る前にアセトアミノフェンを2000mg分5くらいで飲むのとか、予防効果的にはどうなんでしょうか。
あまりに注意事項を述べすぎてしまうと世の中八方ふさがりに感じてしまいそうですので、うまく伝えないといけません。
あと、予後などに関しては、日本の循環器病学会のガイドラインに、
◆無症候群の予後は有症候群に比し一般に良好である
◆心事故の発症は0.5~4%/年と考えられている
◆我が国の無症候性でBrugada型心電図のみを示す例の予後は良好とされる
などの記載がありました。
今回、僕が担当した患者さんはsaddle-back型(厳密にはType2)、心原性突然死の可能性のある家族歴があり、Brugada症候群の可能性が高いです。
対応としては、
① リスク因子を紙に書いて渡し、注意喚起するとともに常時携帯いただく
② 本人に1年毎の心電図フォローを強く勧める
③ 希望があれば遺伝子検査を行う
④ 家族のECGスクリーニングを勧める
⑤ 誘発テストの存在の紹介と、循環器紹介を行う
といった感じにしようと思います。
患者さんやその家族の生活に深く関わることなので、なんとも奥が深いです。
そして、入院時心電図にここまで救われたのは初めてでした(だからといって、全例とらなければならないかというのは、また別の話ですが…)。
というわけで、今回の“ID”は、incidental detection(偶然の発見)ということで、勘弁してください!!
長文にて失礼いたしました!おやすみなさ~い!!
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