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2013年4月27日 (土)

マラリア迅速キットの落とし穴

DCCの忽那です。
 

マラリアの診断のゴールド・スタンダードはギムザ染色による虫体の確認ですが、近年は迅速キットも広く使われるようになっております。
感染症法での届出基準には迅速キットは含まれていませんが、感度・特異度ともに優れており、経験のある検査技師がいない病院や、夜間・休日の当直帯にギムザ染色ができない場合などには大変有用です。
DCCにも迅速キットを常備しており、ギムザ染色と併用して診断に役立てております。
DCCに置いてあるのはBinox Nowという迅速キットで、これは熱帯熱マラリアに特異的な抗原であるhistidine-rich protein II(HRPII)とマラリア共通抗原の2種類を標的にしたものです。
ある報告では感度97.0%とされており(Clin Infect Dis. 2009;49(6):908.)、感度が非常に高いと言われていますが、ここに落とし穴があります。
 
以下は架空の症例です。
 
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40代の男性。
青年海外協力隊の活動のためタンザニアで2年間滞在し、3ヶ月前に帰ってきました。
タンザニア滞在中はマラリアの予防のためにメフロキンを週に1回欠かさず飲んでいました。
3日前から発熱があり、昨日から下痢が出現したため当院の救急外来を受診。
発熱と下痢がある以外には特記すべき異常所見なし。
 
ちょうど忽那はこの日救急外来の当直をしており、初期研修医とディスカッションをしました。
 
研修医「帰国から3ヶ月経っており、輸入感染症は考えにくいと思います」
 
忽那「ほう・・・」
 
研修医「感染性腸炎と思われますので、点滴をして経過観察で良いでしょうか」
 
忽那「ほう・・・。いや、下痢をしてたら感染性腸炎って簡単に言ってしまうのは危険だよね。下痢はいろんな疾患で起こりうるからまずは腸管外の疾患を除外するのが大事だよ。ここはアフリカから帰国後の発熱というころで、やはりマラリアを除外しておこう。ヒプノゾイトという肝臓で休眠する種類のマラリアは一般的な潜伏期から大幅に過ぎてから発症することがあるからね」
 
研修医「マラリアですか・・・患者さんは予防内服ちゃんとしてたっておっしゃってますので可能性は低いと思いますけど」
 
忽那「メフロキンを予防内服しても、ヒプノゾイトの形成は防げないから三日熱マラリアか卵形マラリアの可能性は十分あるよね」
 
研修医「・・・じゃあしょうがないから迅速検査やりますか・・・」
 
このように、当院の初期研修医は全員超優秀であり、大都会で研修しているからといって変にスレることもなく、忽那の指導にもイヤな顔一つせず聞いてくれる、大変素直な良い研修医ばかりでして、忽那としては大変教え甲斐があるなあとひしひしと感じております。
 
というわけで、採血を行い迅速検査を行うことに。
15分後・・・。
 
Img_4843
 
研修医「やっぱり陰性ですね・・・」
 
忽那「迅速検査が陰性というだけで除外してもいいと思う?」
 
研修医「だって感度高いでしょ、迅速キット。陰性だからもういいでしょ」
 
忽那「熱帯熱マラリアでは確かに迅速検査の感度は高いよね。とてもよく勉強しているね。素晴らしい研修医だね君は。最高だね。日本一の研修医と言っても過言ではないよね。でも非熱帯熱マラリアについては感度はあまり高くないことも覚えておくとなお良いかもしれないね。今回は非熱帯熱マラリアを疑っているので、診断はギムザ染色で行う方がいいだろうね」
 
研修医「ギムザ染色ですか。ちょっと患者さんが立て込んでて染色する時間がないんですけど・・・
 
ちなみにこれは当院の研修医がグラム染色をしない言い訳として使われる常套句でもあります。
 
忽那「そうか。じゃあ仕方ないね。他の患者さんを待たせすぎるのは良くないし、みんな忙しいものね。でもギムザ染色をしないと診断ができないから、僕がササッとギムザ染色をしてくるよ。その患者さんには点滴をしながら待っててもらってね」
 
こうして世の中の不条理とサラリーマンの悲哀を感じつつ、忽那は検査室でギムザ染色をしたのでした・・・
 
Img_4844
 
するとやはりいました。
卵の形をしていて、周囲にトゲトゲしている箇所があるので卵形マラリアっぽいように思いますが、三日熱との鑑別はなかなか困難です。
寄生率は0.1%といったところです。
 
忽那「赤血球の大きさと比べてやや大きいので、三日熱マラリアまたは卵形マラリアだね」
 
研修医「忽那先生、さすがです、参りました!ギャフン!」
 
忽那「いや、これはみんながいたから診断できた症例だ、これぞチーム医療だね!」
 
研修医「先生!」
 
忽那「ハッハッハ・・・」
 
※以上、完全に忽那の妄想です
 
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というわけで、単なる私の研修医へのストレスの捌け口のコーナーとなっておりますが(いや、当院には真面目で素直な研修医もたくさんいますよ☆)、この症例はPCRで卵形マラリアと診断されました。
卵形マラリアは私がDCCに来てから2例目で、1例目も迅速検査は陰性でした。
先ほどの迅速キットに関する感度の論文は、熱帯熱マラリアでは100%と非常に高いのですが、三日熱マラリアでは69%と低く除外には使えない数値です。
卵形マラリアや四日熱マラリアに至っては迅速キットについての報告があまりなく、感度がどれくらいか分からないという状況です。
 
さて、谷崎隆太郎らは国際医療センターで経験した卵形マラリアの症例の迅速キットの感度についてまとめております。
 
Photo
■隆太郎らのご厚意による
 
これを見ますと、卵形マラリアでは8例中2例のみで陽性であったとのことです。
本症例を入れると9例中2例、感度は22%程度ということになります。
この原因の一つには、卵形マラリアの寄生率が人体ではあまり上がらないことが挙げられるのではないか、と隆太郎らは述べています。
 
Ryutaro065
 
●本症例のクリニカルパール:
三日熱マラリアと卵形マラリアでは迅速検査が陰性になることが多い。ヒプノゾイトを形成する非熱帯熱マラリアを疑ったら、ギムザ染色で診断すべし。

2013年4月22日 (月)

動画「血液培養の採り方」

忽那@DCCです。

DCC動画シリーズ「血液培養の採り方」を作成しました。
国立国際医療研究センターでの標準的な血液培養の採り方です。
当院総合感染症コースレジデントの上村・濱田、初期研修医の守山と共に作成しました。
NCGMレジデントの教育用に撮影したものではありますが、当院以外の施設でもご参考いただけましたら幸いです。




フィードバックもぜひよろしくお願い致します。

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