無料ブログはココログ

« Surviving Sepsis Campaign 2012 | トップページ | IASR アルジェリアで回帰熱と診断された日本人男性の1例 »

2013年1月26日 (土)

グラム染色のピットフォール

忽那です。
 
本日は私の最近の失敗例を共有させていただきたいと思います。
80代男性、肺炎の診断で救急科より紹介となりました。
喀痰のグラム染色はこんな感じでした。
 
0_3
■治療開始前の喀痰
 
グラム陽性双球菌が多数見え、肺炎球菌性肺炎と診断しました。
ちなみに尿中抗原も陽性でした。
忽那は常々、レジデントの間に肺炎球菌性肺炎をPCGで治療する経験をしてほしいと思っておりまして、幸い患者さんも軽症であったことから本症例もPCGで開始してレジデントU村と経過を見ていくことにしました。

 
U
 
U村「おおー、いるっす、いるっすね。肺炎球菌ですね。でもなんかグラム陰性に見えるのもいませんか?」
 
忽那「うむ。確かに一部グラム陰性に見える菌がパラパラといるけど、肺炎球菌がすごい勢いで増殖する際に染色性が変わることがありから、まあそれを見ているんじゃないかな」
 
U村「ふーん(懐疑的な眼差し)。」
 
忽那「とにかくPCGで開始して、経過を見ていこう」

 
細菌性髄膜炎の所見もなく、Smoker以外は特にリスクファクターがなかったためPCG 200万単位×6で開始しました。
忽那としては、喀痰を数時間ごとに採取してグラム染色を行い、経時的に菌が消失していく様子を見て、狭域スペクトラムの抗菌薬で肺炎球菌性肺炎は治療できるという感染症診療の基本を学んでほしい、と思っていました。
 
Pcg
 
この写真は、忽那が以前肺炎球菌性肺炎の患者の喀痰をしつこいほどフォローアップして経時的に追った写真ですが、この症例もこのように消えていくことを想定していました。
さて、6時間後に喀痰を再度採取し治療効果を判定しました。

 
6hr
■6時間後の喀痰
 
忽那「おお、減ってる減ってる。どうだU村、肺炎球菌性肺炎はPCGで治療できるんだ」

 
自慢げに語る忽那。 
 
U_2
 
U村「ほほ〜。ほんほん。」
 
感動してるのかバカにしてるのか分からない感想を述べるU村。
そして12時間後の喀痰。
 
12hr_2
■12時間後の喀痰 
 
忽那「あれ・・・うーん・・・グラム陰性球菌ばかりが見える・・・。まさかモラキセラ・・・?」
 
U村「そっすね。モラキセラっすね。僕の思った通りっすね」
 
忽那「(このやろう・・・)モラキセラはβラクタマーゼを産生するから、PCGは無効であり残ってしまったわけだな。うむ、教育的な事例だ。勉強になったな、U村」
 
U村「先生、それよりも早く抗菌薬の変更を・・・」
 
忽那「(このやろう・・・)じゃあモラキセラにも効くであろうセフトリアキソンにするか・・・」
 
U村「セフトリものがたりですね!(目を輝かせて)」
 

忽那「そうだ、セフトリものがたりだ!」
 
セフトリものがたり、というのはDCCのごく一部で流行しているスラングで、要するにセフトリアキソンで治療を行うことを指す、全く意味のない言葉です。
言うまでもなく竹取物語からインスパイアされています。
 
Photo
 
というわけで、培地からは肺炎球菌とモラキセラが生えてきました。
α溶血のコロニーが肺炎球菌で、白く輝くコロニーがモラキセラです。 肺炎球菌尿中抗原が陽性であれば肺炎球菌のみをターゲットにして治療しても大丈夫だった、という研究があります(Current and potential usefulness of pneumococcal urinary antigen detection in hospitalized patients with community-acquired pneumonia to guide antimicrobial therapy. Arch Intern Med. 2011 Jan 24;171(2):166-72. PMID: 20876397)が、このような症例では注意が必要ですね。
 
「セフトリものがたり」にてこの症例は事なきを得ましたが、こまめに喀痰のフォローアップをしていなかったらと思うと怖いですね。
今こうやって見返すと、どうみてもモラキセラなんですが、肺炎球菌ばかりに目が行ってしまって見落としていました。
というわけで、本症例のTake Home Messageとしては
 
・肺炎球菌尿中抗原が陽性だと言っても、混合感染のことがある!
・モラキセラは双球菌なので肺炎球菌に紛れていることがある!
・市中肺炎患者のこまめな喀痰のフォローアップは患者と主治医を助ける!

 
皆さまの今後の診療のご参考になりましたら幸いです。

« Surviving Sepsis Campaign 2012 | トップページ | IASR アルジェリアで回帰熱と診断された日本人男性の1例 »

感染症」カテゴリの記事

コメント

頑張っていますね。とても勉強になりました。

ワシはグラム陽性菌のみ見た後に、グラム陰性菌を探すようにしてるのじゃ。
そうすると見逃すことが無いのじゃ。

究極には慢性気道感染症の人で緑膿菌が居るときにインフルエンザ菌を見逃すことがあったので気にしているのじゃ。

コッホの法則からすると肺炎球菌だけで良いのは分かるのではあるがそこが面白いと思うところじゃな。

しかし、アシネトバクターじゃ無くて良かったのじゃ。

師匠

金言ありがとうございます。

「グラム陽性菌のみ見た後に、グラム陰性菌を探す」

これはまさに、私も医師3年目のときにパラパラいる肺炎球菌の背後に隠れた大量のインフルエンザ桿菌を見逃したことがあります。今も忘れません。ちなみにセフトリものがたりでしたので、その症例も事なきを得ましたが。

「グラム染色道場師範のパール」書籍化しましょう!

私はS野さんから,「まずはインフルエンザ菌がいないかどうか見てから,他の菌を見なさい」と教わりました.
ベテランの方々の言うことは,表現こそ違え,同じですね.

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/185562/56542360

この記事へのトラックバック一覧です: グラム染色のピットフォール:

» 肺炎 最新情報 - 知識陣 (健康 医療) [知識陣 健康]
肺炎 に関する最新情報 [続きを読む]

« Surviving Sepsis Campaign 2012 | トップページ | IASR アルジェリアで回帰熱と診断された日本人男性の1例 »

最近のトラックバック