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2012年8月23日 (木)

デング熱の二次感染

忽那@DCCです。

デング熱の季節ですね。
先日、某会合で国立感染症研究所の砂川富正先生が千葉でのチクングニヤ熱の症例について「二次感染が起こる可能性」について言及されていました。
それと時期を同じくして岩田健太郎先生も「楽園はこちら側」でデング熱の二次感染について書かれていました。
そうです、日本国内でもデング熱やチクングニヤ熱の二次感染が起こりうるんです。
海外に行っていなくても、我々はデング熱に罹る可能性があります。あくまでも可能性の話ですが。

流行地でデング熱を媒介しているのは、ネッタイシマカAedes aegyptiであります。
日本には現在ネッタイシマカは土着していないそうですが(ウィキペディアより)、日本全国に分布しているヒトスジシマカAedes albopictusもデング熱を媒介しうると言われています(ちなみにヒトスジシマカはAsian Tiger MosquitoというMac OS Xみたいな異名がついています)。
実際に1942~1945年にかけてデング熱が西日本で流行したことが報告されています。流行は1942年7月に長崎市から始まり、広島、神戸、大阪などでも発生したそうです。
この流行では、デング熱ウイルスは東南アジアから帰国した軍用船の乗組員中のデング熱罹患者によって国内にもたらされ、各都市で大量に発生していた土着のヒトスジシマカにより流行が引き起こされた可能性が高い、とされています(IASR 「輸入感染症としてのデング熱」より)。
近年では2001〜2002年にハワイでヒトスジシマカに媒介されたデング熱のアウトブレイクが起きているようです(IASR「世界におけるデング熱・デング出血熱」より)。
ちなみに「わが国のヒトスジシマカの分布北限は、1950年代には栃木県であったが、その後、約50年間に宮城県、山形県、秋田県、岩手県と拡大を続け、特に1990年代の分布域の拡大が顕著である。現在の分布北限は青森県に近づいており、今後の温暖化の状況によっては津軽平野、青森、八戸等の都市へ侵入することが予測されている。」だそうです(IASR 「デング熱、チクングニヤ熱媒介蚊の生態および温暖化の分布域拡大に与える影響」より抜粋)。
つまり、北海道以外の日本全国でデング熱が流行する可能性があるということです!!

ヒトスジシマカのデング熱媒介能については、以下のようなレビューがありました。

Critical review of the vector status of Aedes albopictus.
Med Vet Entomol. 2004 Sep;18(3):215-27.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=15347388

ヒトスジシマカは世界中に分布しているが、ネッタイシマカほど人を咬むことはなく、デング熱の媒介力についてはネッタイシマカより劣るため、大流行を起こすことは稀とのことです。
そうするとデング熱患者が日本で輸入感染症として発生した場合、感染対策って必要なんでしょうか。
私がタイのメソットに研修に行った際、確かにメラキャンプという難民キャンプではデング熱患者の周りには蚊帳が張ってありましたが、あれを日本でもやった方がいいんでしょうか。

Kaya
■後ろの蚊帳の中の人がデング熱の患者さんです

個人的には1945年以降も日本では密かにデング熱の二次感染はsporadicに起こっているのではないかと思っているのですが・・・。
スルーされているだけなのではないかと。

Aさんがフィリピンから帰ってきてデング熱を発症
→発熱期間中にヒトスジシマカが発熱期のAさんを刺してデング熱ウィルスをゲット
→Aさんの隣近所に住むBさんがヒトスジシマカに刺される
→数日後にBさんがデング熱を発症
→Bさんが近医受診しても海外渡航歴がないのでデング熱は疑われず「うーん・・・なんかのウィルス感染症かなあ・・・?」で片付けられる(そしてなぜかフロモックスが処方される)。
→皮疹が出たあと自然治癒

もしかしたらこのようなストーリーが我々の近くで起こっているのかもしれません!
というわけで、海外渡航歴デング熱症例を診断することを私のライフワークの一つとして加えたいと思いますのでよろしくお願い致します。

2012年8月19日 (日)

グラム染色について考える

今度,とある学会で発表する抄録です.

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医師にとってのグラム染色の意義とその先にあるもの

 演者はグラム染色に強い興味を持ち,2006年に”ID Conference”という名前のブログを開設した.演者は今なお毎日のようにグラム染色を見て写真を撮っており,PCに撮りためた微生物検査関連の写真は4000枚を超えた.

 グラム染色は治療の対象とすべき「敵」を目の前に迅速に可視化してくれる.感染症診療におけるその有用性は言わずもがなであるが,研修医や学生に対しての教育効果という点でもグラム染色は非常に有用なツールである.培養検査を提出していたことを思い出したように数日してから培養結果や感受性結果をみて抗菌薬を選択していた医師が,まずグラム染色結果を当日中に確認するようになり,さらに「グラム陽性球菌」の中にもブドウ球菌や連鎖球菌の違いがあることを知り,それぞれに応じて選ぶべき抗菌薬が違うことを知るようになる.こういった変化の積み重ねがやがて病院全体の感染症診療の質の向上につながるし,抗菌薬の適正使用や耐性菌の減少など感染対策面にも及ぼす効果は大きい.医師の興味と知識が向上すると,技師への質問も増える.そうすると技師も勉強し,経験を重ね,能力が向上するという相乗効果が生まれる.


 この中で医師に生まれるのは「臨床微生物学」への興味である.プロカルシトニンや
CRPといった検査項目が,感染症診療全体の枠組みの中での「一つのツールに過ぎない」ことを知っている臨床医は,やがてグラム染色も「一つのツールに過ぎない」ことに気づく.そうなると次には培養の過程や感受性検査の手法や過程に興味を持つ.ウイルスやレジオネラ,マイコプラズマなど「培養困難」な微生物が多いことに気づくと,今度は「研究」への萌芽が生まれる.場合によっては臨床検査技師が「当たり前」と見過ごしてきた事象を,臨床感染症の視点からその重要性に気づくことができるかもしれない.そうして今度はもっと巨視的な目で「臨床微生物検査」を感染症診療の中で適切に位置づけることができるようになる.

 グラム染色は,それ自体が有用である.しかし,臨床医に感染症診療や臨床微生物検査に対してより深い興味を持ってもらうためのツールとして,より大きな可能性を持っていると考える.

 
一方で,グラム染色は「臨床」検査であり,患者の予後に直結しうる検査である.不慣れな人間が使用期限の過ぎた染色液で染色した適当な結果に基づいて治療が行われることなどあってはならない.もちろん,耐性菌や結核菌などにより,検査を行う者や検査室を共有する者に危険が及ぶこともありうる.グラム染色に基づいた感染症診療の啓蒙が進むのは歓迎すべきことだが,同時にその質をいかに担保していくかを考えることも重要であり,決して安直な発想で行うべきものでもないことを強調したい.

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