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2012年8月12日 (日)

Inoculum effectとCEZ vs CTRXについての暫定的まとめ

Ais_ctrx_carbon_top 国立国際医療研究センターの忽那です。
こっちに来てからMSSAの骨髄炎をやたらと診ているのですが、抗菌薬は基本的にCEZを使っていました。
しかし、最近「MSSA骨髄炎ってCTRXの方がいいんじゃない?」というディスカッションが国際医療センター内で行われています。
というわけで、本日はInoculum effectとCEZ vs CTRXについてのマニアックなお話です。

皆様はInoculum effectという言葉をご存知でしょうか。
私も2年前くらいに管理人に「Inoculum effectを考慮するとこの症例ではCTRXの方が良いだろう」というアドバイスをいただき初めて知った次第であります。
Inoculum effectというのは、Eagle先生が発見したのでEagle効果とも呼ばれますが、要するにMICを測定するときにスタートの菌量を多くしてしまうと、16時間後に測定されるMICが高くなってしまうという現象です(そのため、CLSIでは感受性検査の際に加える菌量を設定しています)。
このInoculum effectはあくまでもin vitroで観察される現象ですが、感染性心内膜炎や膿瘍など菌量が多いシチュエーションでは、このようなinoculum effect的なものがin vivoでも起こるのではないかと言われています。

たとえば劇症型A群溶連菌感染症ではPCGに加えてCLDMの併用が推奨されていますが、その理由の一つとしてPCGではinoculum effectが起こる可能性があることが挙げられています(UpToDate Treatment of streptococcal toxic shock syndrome参照)。
MSSA菌血症に対してもCEZではinoculum effect的なものが起こることが報告されていますが、これはβラクタマーゼ type Aの過剰産生によるものであるとされています。

この辺はNanniniという先生が追求されております。
以下、以前に管理人に教えてもらった文献です。

Nannini EC, Singh KV, Murray BE.
Relapse of type A beta-lactamase-producing Staphylococcus aureus native valve endocarditis during cefazolin therapy: revisiting the issue.
Clin Infect Dis 2003;37:1194-8.

Nannini EC, Stryjewski ME, Singh KV, et al.
Determination of an inoculum effect with various cephalosporins among clinical isolates of methicillin-susceptible Staphylococcus aureus.
Antimicrob Agents Chemother 2010;54:2206-8.

Nannini EC, Stryjewski ME, Singh KV, et al.
Inoculum effect with cefazolin among clinical isolates of methicillin-susceptible Staphylococcus aureus: frequency and possible cause of cefazolin treatment failure.
Antimicrob Agents Chemother 2009;53:3437-41.

比較的最近のCIDにMSSAに対するセファロスポリン系のInoculum effectに関する短い総説のようなものが掲載されていましたので読んでみました。

Treatment of Infections Due to Methicillin-Susceptible Staphylococcus aureus (MSSA): Cephalosporins Versus Semisynthetic Penicillins

簡単にまとめると以下のような内容です。

・type A βラクタマーゼを産生するMSSA株はβラクタマーゼの過剰産生によると思われるInoculum effectを示し、MICが128μg/mLにまで達しうる。
・この現象はIEの疣贅ように10の10乗CFUという大量の菌濃度の感染症で起こりうることが示唆されている。
MSSAのうち20%の株で高濃度でMICが16以上になると報告されている。MSSA感染症の治療にCEZよりも半合成ペニシリン(SSP)の方が治療成績が良いのは、このような現象も関与しているのかもしれない。
・541人のMSSA菌血症患者を対象とした後ろ向き研究では、クロキサシリンとCEZは、CTRX、CTX、βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリンよりも30日死亡率が低かったPaul M, Zemer-Wassercug N, Talker O, et al. Are all beta-lactams similarly effective in the treatment of methicillin-sensitive Staphylococcus aureus bacteraemia? Clin Microbiol Infect. 2011 Oct;17(10):1581-6.)。この研究ではCTRXはSSPやCEZに劣っていたようであるが、これはInoculum Effectによるものではなさそうである。
・Nanniniらは98株のMSSA株のうちtype A βラクタマーゼを産生するMSSA25株がCTRXに対してInoculum Effectが起こらないことを示している。
・近年、Wielandらは124人のMSSA骨髄炎患者の治療において、CTRXとオキサシリンで治療効果に差がなかったことを報告している。副作用による治療中断はCTRXの方が少なかった(Wieland BW, Marcantoni JR, Bommarito KM, et al. A retrospective comparison of ceftriaxone versus oxacillin for osteoarticular infections due to methicillin-susceptible Staphylococcus aureus. Clin Infect Dis. 2012 Mar 1;54(5):585-90.)。
・前向き研究はないものの、MSSA感染症においてCEZはSSPよりも劣るのかもしれない。IEのような菌濃度の高い感染症では注意が必要である。

臨床的にInoculum effectが証明された症例はこれまでのところない(そもそもどうやって証明するのでしょう・・・?)ものの、in vitroでCEZがtype A βラクタマーゼで分解され、CTRXは分解されないことは証明されているわけで、Inoculum effectが可能性として検討される臨床状況では、CTRXを選択した方が良いのかもしれません。その一方で、MSSA菌血症患者を対象とした後ろ向き試験ではCTRXはCEZに治療効果が劣っていたという報告もあります。
この辺は解釈が難しいところですが、骨髄炎ではCTRXはオキサシリンと差がなかったという報告を考慮すれば、骨髄炎(椎体炎)があって硬膜外膿瘍もあるようなHigh Inoculumの症例ではCTRXが良いのかもしれません。

MSSA骨髄炎の再発率の違いを見た研究でも、CTRXの再発率はSSPやCEZよりも低かったと報告されています。
MSSA骨髄炎246例の検討で、ブドウ球菌用ペニシリンと比較した場合の再発リスクは、CEZ 1.1、CTRX 0.8、VCM 2.5であった。

Tice AD, Hoaglund PA, Shoultz DA.
Outcomes of osteomyelitis among patients treated with outpatient parenteral antimicrobial therapy.
Am J Med. 2003 Jun 15;114(9):723-8.

というわけで、MSSAによる骨髄炎(± 椎間板炎、硬膜外膿瘍、腸腰筋膿瘍)ではCTRXが選択肢となりうると考えていますが・・・皆様はいかがお考えでしょうか。
これはナフシリンやクロキサシリンがないという日本特有の問題であるため、海外からの報告を期待するよりも日本での症例の蓄積が必要だと思います。

というわけで、どなたか国立国際医療センターと共同でProspective Studyしませんか?

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