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2012年8月 3日 (金)

目で見る感染症 その2「動く虫」解答編

国立国際医療研究センター国際感染症センターの忽那です。
今回は前回の目で見る感染症シリーズの解答です。

とりあえず前回の中年女性の便から出た虫をもう一度見てみましょう。

いやー、この躍動感のある動き、ぱねえっすなあ。
あまりに感動したので、この動画をいろんな人に見せまくっていますが、たいていは「お、おう・・・」という感じのリアクションで寂しい忽那です。

さて、前回の虫を国立感染症研究所の寄生動物部に送って検査していただきました。
ミトコンドリアDNAのcox1遺伝子をPCRで増幅した増幅産物の塩基配列が解析され、無鉤条虫(Taenia saginata)と同定されました。
無鉤条虫は体節が切れて数cmずつ便に排出され、それぞれがこのように活発に動くそうです。

というわけで、病原体が分かれば治療するのみであります。
果たして何も悪さをしていない寄生虫を駆虫すべきなのか、少々かわいそうな気もいたしますが、まあご本人が気持ち悪がっているので仕方ありません。
前日の夜に下剤を飲んでいただき、当日の朝にプラジカンテルを飲んでいただきました。
そして昼過ぎに・・・出よったああああああ!

Zqn

こ、これは・・・すごい迫力・・・。
拡大するとこんな感じです。なんかきしめんっぽい。

P1200396

そこに突然乱入し、「きしめん、大好きッス!いただきます!」といきなり食べようとするT崎先生。

Photo

落ち着け!それはきしめんじゃない!

いや、待てよ・・・確かにきしめんに似ているような気もするな・・・これは鑑別が必要だ。
ちょうど偶然にもきしめんを食べているT崎先生の写真を持っていたので、日本海裂頭条虫も合わせて比較してみました(クリックで拡大します)。

Hikaku

うーむ、これは鑑別が難しい・・・。
しかし無鉤条虫の方が節がはっきりとしているような気がします。
ちなみにT崎先生は写真を撮るときは険しい顔をしてますが、普段はとても陽気な先生です。

出てきた虫を患者さんが見たいというのでビンに入れて持って行くと、目を輝かせながらデジカメで写真を撮りまくってました。
いやー、これだけ喜んでいただけると駆虫した甲斐があったというものです。

さて、最後に無鉤条虫の簡単なまとめを。

無鉤条虫の成虫はヒトの腸管に寄生する大型の条虫で、幼虫である無鉤嚢虫はウシに寄生しており、ヒトはこの無鉤嚢虫を保有する牛肉を生あるいは加熱不十分な状態で経口摂取して感染します。
無鉤条虫は世界中に分布しており、アフリカ、東欧、ロシア、アジア(特に北部中国、韓国)にみられます。豆知識ですが、ヒンズー教国は牛肉を食べないので無鉤条虫は分布しないそうです。
現在国内での発症例はありませんが、ときどき本症例のように輸入例がみられるようです(日本寄生虫学会の寄生虫症薬物治療の手引きには稀ではあるが国内発症がまだある、と記載があります)。
感染しても片節排出時に肛門部不快感や違和感があるだけで、本症例のように無症状のことが多いようですが、ときに腹痛、下痢がみられることがあります。
本症例では便の虫卵検査は陰性でしたが、これは無鉤条虫の受胎片節は子宮口を持たないためであり、虫卵が便中に排泄されるのは腸管内で体節が破壊されたときのみです。
有鉤条虫との区別が重要で、有鉤条虫の片節の子宮分枝数は各側 10 前後、無鉤条虫のそれは各側 20 以上だそうです。
治療はプラジカンテルが第一選択ですが、これが無効であった場合には(名前が無鉤条虫だけに)、有鉤条虫と同様に十二指腸ゾンデを留置してガストログラフィンを注入することになります。
国立感染症研究所のY崎先生に伺ったのですが、プラジカンテルで治療をすると体節がちぎれて出てくるので、キレイに虫体を取り出したいときはガストログラフィンが良いそうです。
有鉤条虫であればプラジカンテルで虫体を破壊すると虫卵が腸管腔内に出て、さらに虫卵から六鉤幼虫が出て腸壁に侵入し、血流によって体内の各部に運ばれ有鉤嚢虫を形成するという恐ろしいことになってしまうので、ガストログラフィンでの治療が好まれます。


参考文献)
日本寄生虫学会 寄生虫症薬物治療の手引き
図説 人体寄生虫学
寄生虫学テキスト

2012年8月 1日 (水)

「臨床感染症ブックレット 7巻  入院患者における重症・難治性感染症を診る」

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臨床感染症ブックレット 7巻
入院患者における重症・難治性感染症を診る

こんにちは,管理人です.
今日は,本の紹介をさせてください.

文光堂の「臨床感染症ブックレット」シリーズは,埼玉医科大学の前崎繁文先生と国立国際医療研究センターの大曲貴夫先生が編集委員をされているシリーズものですが,今回その第7巻「入院患者における重症・難治性感染症を診る」のゲスト編集を務めさせていただきました.

その名前の通り,主な対象は「入院患者における重症・難治性感染症」でありまして,このような切り口での類書は他にないものと自負しております.

総論では,入院患者の感染症の重症化・難治化の理由,基本的アプローチ,抗微生物薬の使い方,補助療法,そしてERでの重症感染症にも触れています.

各論では,入院患者の感染症で代表的な院内肺炎やカテーテル血流感染症などを中心に種々の感染症について解説してもらっています.

今回の企画の目玉は執筆者です.いわゆる「IDATEN世代の感染症医」だけでなく,外科医,泌尿器科医,集中治療医,呼吸器科医など,「感染症をsubspecialityとする,非感染症専門医」に執筆をお願いしています(もちろん多くの方は感染症専門医はお持ちですが).

その意義は,私の書いた「オーバービュー」に記す通りです.新しい意見と新しい意見が交わることで,新しい価値と意義が見いだされるはずです.

是非ご一読ください.皆さんきっとそれぞれの意見をお持ちになると思います.そこからまた「臨床現場の総力戦」における新しい展開が見えてくると思います.

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感染症の類書が増えてきた昨今,いわゆる「臨床感染症の原則」はある程度浸透してきているのを実感している.一方,臨床感染症でも少し踏み込んだ領域,専門的な領域に関してはまだまだ日本語の書物は乏しいのが現状である.

本書で扱った「入院患者の重症・難治性感染症」は,このような専門的な領域の知識が必要となる,いわゆる「総合力」で勝負しなければならない領域である.ここでは感染症科医は歯車の一つにすぎず,いわゆる主科・主治医の指揮のもと,各外科医,各内科医,放射線科医など様々な診療科が有機的に連携して診療にあたらなければならない.

本書の最大の特徴は,私が普段から直接存じ上げている「感染症を理解する各診療科のスペシャリスト」に執筆をお願いした点にあり,その意味では本書はまさに普段の臨床現場の総力戦を体現しているといえる.

日頃,感染症科医は「ドレナージが必要ですね」「外科的処置がなければ治りませんよ」といとも簡単に言うが,実際どのようなドレナージが必要なのか,どのような外科的処置が必要なのかはほとんど理解しておらず,各診療科に丸投げしているのではないだろうか.しかし本書では例えば腹腔内膿瘍に対するドレナージについて,超音波ガイド下とCTガイド下の使い分けを消化器外科医が分かりやすく解説してくれている.あるいは骨髄炎の患者に対して機能予後を考慮してデブリドマンをどう行っていくかについて整形外科医が明瞭に解説してくれている.

そのほかにも呼吸器感染症の胸部画像の読み方に関する呼吸器内科医の解説,腹膜透析患者の感染症のアプローチに関する腎臓内科医の解説,ステロイドやγグロブリンなどの補助的治療に関する集中治療医の解説,など,各臓器スペシャリストの解説は,まさに目から鱗が落ちる思いで読むことができる.同時に,いかに自分が勉強不足であるか,また普段いかに偏った物の見方をしていたか,反省することばかりである.一人の患者を診療するにあたっては,様々な視点からの評価が必要であるし,それぞれの価値観は異なって当たり前である.お互いがそれぞれの価値観を尊重し,歩み寄ってその接点を探す努力が必要である.

 本書を読了した全ての臨床医が翌日から新しい視点から患者を診ることができるようになれば,望外の喜びであるし,このような各スペシャリストの叡智を集結した感染症診療が当たり前のように行われることを願う.

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