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2012年5月11日 (金)

Austrian Syndrome

都会の絵の具に染まりつつある忽那です。
Austrian Syndromeという珍しい症例を経験したので調べてみました。

・1957年にRobert Austrianによって初めて報告された、肺炎球菌による肺炎・髄膜炎・感染性心内膜炎の3つを合併した症候群である(Austrian R. Pneumococcal endocarditis, meningitis and rupture of the aortic valve. Arch Intern Med 1957; 99: 539–44.)。
・肺炎球菌性感染性心内膜炎は3次医療機関では10〜20年に1例ほど見られる(Powderly WG, Stanley Jr SL, Medoff G. Pneumococcal endocar- ditis: Report of a series and review of the literature. Rev Infect Dis. 1986;8:786-791.)。デンマークでは10年間で14例が報告されている(Lindberg J, Prag J, Schonheyder HC. Pneumococcal endocarditis is not just a disease of the past: An analysis of 16 cases diagnosed in Denmark 1986-1997. Scand J Infect Dis. 1998;30:469-472.)。アルコール依存症がリスクファクターとして知られており、急性に進行する。
・48例のAustrian Syndromeのレビューでは、中年男性、アルコール過剰摂取、免疫抑制患者がリスクファクターとして挙げられている(Gonzalez–Juanatey C, Testa A, Mayo, et al. Austrian syndrome: report of two new cases and literature review. Int J Cardiol 2006; 108: 273–5.)。
・48例のうち詳細が記載されていた症例は16例で、これらの感染性心内膜炎は全て自然弁であり、75%は大動脈弁に疣贅があった。
・この16例のうち、基礎疾患として7例がアルコール依存症、1例がHIV、1例が肝硬変があった。
・16例のうち9例は心不全を合併しており、10例は弁置換術が施行された。
・Austrian Syndromeの死亡率は20%であり、これはこれまでに報告されている肺炎球菌性感染性心内膜炎の死亡率と同等であった。
・弁置換術が行われなかった症例の死亡率が60%であったのに対し、早期に弁置換術を行った症例の死亡率は32%であったという報告がある(Velazquez C, Araji O, Barquero M. Austrian syndrome: a clinical rarity. Int J Cardio 2008; 127: e36–8.)。
・眼病変を合併することもある(Milazzo L, Marchetti G, Negri C. A case of Austrian’s syndrome with ocular involvement. Infection 1999; 27: 46–7)。

名前からしてオーストリア人に多い症候群なのかと勝手に思っていましたが、ヒトの名前なのですね。オーストリアの方、すいませんでした。
個人的には、肺炎と髄膜炎があった時点でそれ以上追求せずに早期閉鎖してしまうのがピットフォールかと思いました。
毎日しっかり身体所見を取ることの重要性を認識した一例です。

2012年5月 8日 (火)

市立奈良病院での2年間の総括

忽那です。
5月1日から私の所属先の名称が「国際感染症センター」に変更になりました。
これからは国立国際医療研究センター国際感染症センターの忽那です。
やたらと「国際」と「センター」が出てきますが、ご周知のほどよろしくお願いいたします。

さて、先月長崎で行われた日本感染症学会総会に私も演題発表を行ってきました。
去年は回帰熱を発表して調子こいていたのですが、今年は市立奈良病院での2年間の総括というテーマで発表させていただきました。

感染症科としてのアウトカムをどのような形で出すのかというのは難しい問題で、IDコンサルト数、MRSA菌血症患者数とその予後などいろいろなものがあると思いますが、私が発表したセクションが「院内感染対策」であったため、それらしい内容にしぼって発表させていただきました。

■抗菌薬使用届出制
抗菌薬使用届出制に関してはいろいろな意見があるかと思います。
許可制の方が良いとか、どちらも不要であるとか。
市立奈良病院は私が赴任する前からカルバペネム系薬と抗MRSA薬に関しては届出制が敷かれていたのですが、これが届出率50%前後と全く機能していなかったため、届出制の是非について吟味することもできない状態でした。
そこでまずは届出制自体をきちんと機能させた上で許可制が良いのか、届出制も許可制もいらないのか議論しようということになり、まずは届出率を向上させる取り組みから始めました。
具体的な方法については以前このID CONFERENCEでも書かせていただいたアラート機能などを活用しました。
あとは草の根運動です。

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2年間でこのように届出率は上がり、ようやくまともに機能するようになったことで、今後は届出制の是非について吟味できるようになったのではないかと思います。
この辺は誰かが口酸っぱく言えば案外簡単に良くなるんですよね。
この次にどのようにantimicrobial stewardshipを進めていくかについては、後任の先生にお任せしたいと思います。

■血液培養
その病院の感染症診療の適正さをあらわす指標の一つに血液培養セット数、複数セット率があるかと思います。
市立奈良病院は元々総合診療科の先生方がいらっしゃったので、血液培養はある程度採取されていましたが、まだまだ採取数が少なく、1セット採取も多くみられました。
感染症コンサルトをいただいた際に「血液培養2セット採取」を何度もお願いしたり、年に2回だった院内感染対策講習会を4回に増やしてその度に「血液培養2セット、血液培養2セット」と般若心経のように繰り返し唱えていました。
また、市立奈良病院は看護師さんが血液培養を取ってくださるので、看護師さんを対象に血液培養の勉強会などを開いたりもしました。
この2年間で段々と血液培養が市立奈良病院に根付いてきた感があります。

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そんなこんなで血液培養の複数セット率は32.3%から84.8%まで上昇しました。
某有名研修病院にはまだまだ遠く及ばない数字ではありますが、「血液培養2セット」はかなり定着したように思います。

■カルバペネム系薬使用量

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カルバペネム系薬の使用量は、僕自身はそこまで「カルバペネム系薬、取り締まるべし!」と目の敵にしていたわけではないのですが、抗菌薬アラートなどを使って「カルバペネム系薬は使ってもいいけど、De-escalationするために細菌検査を出しましょう」ということを事ある毎に口を酸っぱく言ってきました。
おそらくカルバペネム系薬を使用した症例自体はそこまで減っていないと思いますが、使用期間がかなり減ったのではないかと思います。
その他、カルバペネム系薬の採用薬を4種類から2種類に減らしてカルバペネム内ローテーションを減らしたり、細々とした努力も行って参りました。
あとは届出率の向上もいくぶん使用量の減少に貢献しているのかもしれません。

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カルバペネム系薬の使用量減少に伴い、緑膿菌のカルバペネム系薬に対する感受性も改善しました。
私が赴任する前は感受性が50%を切るというポンコツぶりでしたが、ようやく70%近くにまで上昇してきています。

というわけで、感染症医としてある程度病院には貢献できたのではないかと自負しています。
もちろんこれは私一人の業績ではなく、頼り甲斐のあるICNさんやICTの皆さんのおかげではありますが。

このように感染症に関する病院への貢献という満足感を得ていた一方で、自分の研修内容として現在の職務は果たして十分であるかという疑問が次第に湧いて来ました。
大きな声では言えないのですが、自分が市立奈良病院に赴任したときの私の感染症の経験年数はたった1年半しかなく、まだまだ感染症を勉強し足りない状態で市立奈良病院の感染症科を立ち上げることになったわけです。
当然ながら指導医もおらず、おまけに微生物検査室もないという環境で感染症の研修している自分に不安を覚えるようになりました。
自分と同じくらいの学年の先生方はきっと微生物にまみれて興味深い症例について指導医と熱いディスカッションをしているのだろうなあ・・・と。

そんな焦りを感じつつ、市立奈良病院での感染症科の立ち上げがある程度立ち上げが軌道に乗ったこともあり、この3月で一旦区切りとさせていただきました。
現在は改めて感染症の研鑽を積むために国立国際医療研究センターで研修させていただいております。
感染症科の立ち上げという貴重な経験をさせていただいたことは、今後私にとって大きな財産となることと思いますが、この2年は初心に帰って感染症をしっかりと学びたいと思います。
引き続きこのID CONFERENCEでも感染症に関する「非学術的かつ為になる」内容を皆様にお届けできればと思っております。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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