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2012年8月19日 (日)

グラム染色について考える

今度,とある学会で発表する抄録です.

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医師にとってのグラム染色の意義とその先にあるもの

 演者はグラム染色に強い興味を持ち,2006年に”ID Conference”という名前のブログを開設した.演者は今なお毎日のようにグラム染色を見て写真を撮っており,PCに撮りためた微生物検査関連の写真は4000枚を超えた.

 グラム染色は治療の対象とすべき「敵」を目の前に迅速に可視化してくれる.感染症診療におけるその有用性は言わずもがなであるが,研修医や学生に対しての教育効果という点でもグラム染色は非常に有用なツールである.培養検査を提出していたことを思い出したように数日してから培養結果や感受性結果をみて抗菌薬を選択していた医師が,まずグラム染色結果を当日中に確認するようになり,さらに「グラム陽性球菌」の中にもブドウ球菌や連鎖球菌の違いがあることを知り,それぞれに応じて選ぶべき抗菌薬が違うことを知るようになる.こういった変化の積み重ねがやがて病院全体の感染症診療の質の向上につながるし,抗菌薬の適正使用や耐性菌の減少など感染対策面にも及ぼす効果は大きい.医師の興味と知識が向上すると,技師への質問も増える.そうすると技師も勉強し,経験を重ね,能力が向上するという相乗効果が生まれる.


 この中で医師に生まれるのは「臨床微生物学」への興味である.プロカルシトニンや
CRPといった検査項目が,感染症診療全体の枠組みの中での「一つのツールに過ぎない」ことを知っている臨床医は,やがてグラム染色も「一つのツールに過ぎない」ことに気づく.そうなると次には培養の過程や感受性検査の手法や過程に興味を持つ.ウイルスやレジオネラ,マイコプラズマなど「培養困難」な微生物が多いことに気づくと,今度は「研究」への萌芽が生まれる.場合によっては臨床検査技師が「当たり前」と見過ごしてきた事象を,臨床感染症の視点からその重要性に気づくことができるかもしれない.そうして今度はもっと巨視的な目で「臨床微生物検査」を感染症診療の中で適切に位置づけることができるようになる.

 グラム染色は,それ自体が有用である.しかし,臨床医に感染症診療や臨床微生物検査に対してより深い興味を持ってもらうためのツールとして,より大きな可能性を持っていると考える.

 
一方で,グラム染色は「臨床」検査であり,患者の予後に直結しうる検査である.不慣れな人間が使用期限の過ぎた染色液で染色した適当な結果に基づいて治療が行われることなどあってはならない.もちろん,耐性菌や結核菌などにより,検査を行う者や検査室を共有する者に危険が及ぶこともありうる.グラム染色に基づいた感染症診療の啓蒙が進むのは歓迎すべきことだが,同時にその質をいかに担保していくかを考えることも重要であり,決して安直な発想で行うべきものでもないことを強調したい.

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感染症」カテゴリの記事

コメント

神の領域に踏み込んでしまいましたね。
本日、グラム染色なんか見るだけやろ?って同僚に言われました。
『細菌検査で一番難しいんじゃないですか?』って返事しました。
理由はそこで抗生剤の選択が大きく変わるからです。また数年前に学校で習ったグラム染色の意義はもう古い時代の話ですので時代遅れなんです。
なので難しいんですよ。って言いました。
また集落見る方が楽に感じますね。

何の学会ですか?地方会?

師範手前様

コメントありがとうございます.とある地方会です.
とてもグラム染色を極めたなんてつもりはないですが,時々全体を見回さないと立ち位置が分からなくなってバランスを失ってしまうので,そろそろそういうことも考えないといけないかなぁ,と思っています.
あと,やっぱりグラム染色以外にも微生物検査室では色々なことが行われていることは感染症医としては勉強しなくてはいけないし,またグラム染色以外の微生物検査領域でも臨床医と微生物検査技師とのディスカッションが必要だと思うのです.
そうしないと,今後LAMPやMALDI-TOFなど新しいテクノロジーの病院への導入がまともに行われるとは思えません.
新しく微生物検査室を立ち上げるときも,微生物検査技師さん「だけ」の「想い」で機種選定が行われるのはどうかなぁ,と思うのです.その病院で,どんな患者が入院していて,どんな感染症が予想され,どんな微生物検査が必要なのかをまず話し合った上で,どのような微生物検査を行うのが必要か,そのためにはどのような機器が妥当かを話し合うのが筋だと思います.
もちろん,そのような議論に耐えうるだけの臨床医が存在しないのは百も承知ですが……

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