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2012年5月27日 (日)

さようならプロテインC

国立国際医療研究センター国際感染症センターの忽那です。

今週のNew England Journal of Medicineにリコンビナントヒト活性化プロテインC(rhAPC)の臨床研究が掲載されました。
元々救命センターで働いていたこともありこの辺のネタは大好きなので、個人的に大変興味深く拝見しました。
院内有志で行われている抄読会で発表した内容をこちらにまとめておきたいと思います。

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まずはこれまでのrhAPCの経緯について簡単に振り返りたいと思います。
遡ること11年前(僕が医者になる前ですね・・・)、rhAPCはsevere sepsisの治療薬として颯爽と登場しました。

Efficacy and safety of recombinant human activated protein C for severe sepsis.
N Engl J Med. 2001 Mar 8;344(10):699-709.

PMID: 11236773

rhAPCは以下のような作用機序でsevere sepsisに有効であるとされていました。
■過剰凝固の抑制:第Va因子、第Ⅷa因子を抑制し、血栓生成を阻害する。
■抗炎症作用:TNF-α、IL-1、IL-6産生抑制、HMGB-1の抑制
■線溶系抑制の拮抗:PAI-1を抑制

2001年に発表されたPROWESSと呼ばれるこの研究の内容と結果を簡単に振り返ると
・発症24時間以内の1690例のsevere sepsis、septic shock症例を対象とした多施設二重盲検RCT
・治療群には24時間以内にrhAPC 24μg/kg/hrが投与開始され96時間継続された
・結果はrhAPC群で28日死亡率が有意に低かった(24.7% vs 30.8%, p=0.005)
・rhAPC群で頭蓋内出血など出血性合併症が多い傾向にあったが有意ではなかった
・また、rhAPC群で多臓器不全の合併率が低く、循環、呼吸不全からの回復が早かった
・その後のサブグループ解析では、APACHEⅡスコア20以下または単臓器障害のみの軽症例では生命予後改善は示されなかった
というものでした。

Nejm2001_2

この結果を受けてrhAPCはSurviving Sepsis Campaign Guideline 2004でも「APACHEⅡスコア25点以上の重症例では推奨(Grade B)」となっていました。
severe sepsisに対して1クールの治療を行うのみ当時6800ドル(54万円)もの金額が必要であり、製薬会社のEli Lillyは大儲けしたわけであります。
NEJM前編集長の著書『ビッグ・ファーマ』では、このrhAPC(製品名:ザイグリス)の経営戦略について「広告会社を使って「敗血症患者にrhAPCを使わないことは非倫理的である」というコマーシャルに大金を注ぎ込んだ」など詳細に書かれています。
ちなみに先ほどの2001年のNEJMの研究のスポンサーはEli Lillyがガッチリとクレジットされており、またSurviving Sepsis Campaign GuidelineのメインスポンサーもEli Lillyであったとされています。
臭う・・・胡散くさい臭いがプンプンするぜ!(実際にはクツナは常に鼻が詰まっているので何も臭いません)

その後、2005年に軽症例での再評価試験が行われています。

Drotrecogin alfa (activated) for adults with severe sepsis and a low risk of death.
N Engl J Med. 2005 Sep 29;353(13):1332-41.

PMID: 16192478

この研究では、rhAPCによる生命予後改善効果はなく、出血性合併症が増加した、という結果でした。
severe sepsisの中でも軽症例(APACHEⅡスコア25点以下)では恩恵はなさそうである、と。

改定されたSurviving Sepsis Campaign Guideline 2008でもこの結果を受けてrhAPCは
・禁忌でなければ、sepsisに起因する臓器障害を呈しており、臨床上致死率が高い(APACHEII≧25または多臓器不全)と考えられる成人症例には考慮する(2B、術後症例は2C)
・成人症例で致死率が低いと考えられる症例には活性化プロテインCを投与すべきではない(1A)
とややクールダウンした記載となっています。
Eli Lillyピンチであります。

「ひょっとしてrhAPCって大した薬じゃないんじゃ・・・つーか重症例にもホントに有効なの?」と誰しもが思い始めた昨今、Eli Lillyが大逆転を狙って開始した臨床研究がPROWESS-SHOCK studyであります。
ついに世紀の大勝負が始まったわけであります!

実は、このPROWESS-SHOCKがNEJMに掲載される前に結果はアナウンスされていました。
製薬会社のEli Lilly自身が「効果なかったんで販売中止します」とあっさり認めたためです。

20120527_125323

えっ、そんなあっさり身を引いちゃうんだ・・・この10年は何だったんだ・・・という感じであります。
そして先日ようやくPROWESS-SHOCKの結果がNEJMに掲載されました。

Drotrecogin Alfa (Activated) in Adults with Septic Shock.
PMID: 22616830

・対象患者、治療プロトコールもPROWESSとほとんど同じ(対象はsepsis(感染+SIRS)、ショック、hypoperfusionの所見がある患者、治療はrhAPC を24μg/kg/hrを96時間投与する治療群、0.9%生理食塩水を投与するプラセボ群に無作為割り付け)。
・主要評価項目は28日死亡率
・ITT解析
・全体での28日死亡率、90日死亡率で有意差なし。最も効果が期待された重症群のサブグループでも有効性は証明されなかった

Nejm2012

というわけで、どう解析しても有効性は認められなかったとのことでした。
DISCUSSIONでは「PROWESSの結果と本研究の結果が何故異なるのか分からない・・・」と書かれております。
どんな考察やねん、という世界中からのツッコミが予想されますが、まあほぼ同じプロトコールでやった研究なのに結果が全然違うからなあ・・・筆者の「言いたいけど言えない」という思いが伝わって来ました・・・ (´;ω;`)ブワッ。

あとPROWESSでの28日死亡率がrhAPC群が約25%だったのに対し、PROWESS-SHOCKでも両群25%前後の死亡率でした。
もちろん厳密には患者層が違うので一概には言えませんが、この10年の間にEarly Goal Directed Therapyが登場し、Surviving Sepsis Campaign GuidelineというSepsisの標準治療が確立され、Sepsisの治療はめまぐるしく進歩したのかと思っていたのですが、死亡率は10年前とあまり変わらないのでしょうか。
1979年から2000年にかけては死亡率は徐々に減ってきていたようですが(The epidemiology of sepsis in the United States from 1979 through 2000. N Engl J Med. 2003 Apr 17;348(16):1546-54. PMID: 12700374))、この10年は下がり止まっているのかもしれません。

さて、このPROWESS-SHOCKの結果についての忽那の感想ですが、印象としては「Eli Lillyもこの10年で十分稼いだから満足したのかなあ・・・」という感じです。
この10年の動きを見ているとEli Lillyはずいぶん前から「あんま効果ないんじゃねえの?」って気づいていたのではないかと邪推してしまいます。
製薬会社による壮大な自作自演がようやく終わり、その自作自演に10年間踊らされ続けた我々臨床医は、これを機にもう一度製薬会社との関係性についてじっくり考えるべきではないでしょうか。

幸いと言うべきか、日本では敗血症治療薬としてはrhAPCは販売されていませんでしたが(※アナクトCは敗血症は適応外です)、わが国には似たような機序の製剤がありますし、大規模な臨床研究で有効性をしっかりと検討されることないままにDIC治療薬・ARDS治療薬という触れ込みで盛大にプロモーションされている製剤が多数あります。
そしてその有効性を文献的に検討することなく「すわ!ARDSだ!よし好○球エラ○ターゼを阻害するのだっ!(キリッ)」とMRの言うがままに脊髄反射的に投与しまくる医師も散見されます。
医師として「患者のために何かできることはないだろうか・・・」と思いついついいろんな薬を使ってしまいがちですが、その薬剤が有害である可能性についてはあまり吟味されていないように思います。
患者の生活を改善する薬剤を作ろうとする製薬会社の活動には当然敬意を払うべきですが、営利企業としての製薬会社のバイアスのかかったプロモーション活動には気をつけなければなりません。

これ以上言うと社会的に抹殺されてしまうのでやめておきますが、そのようなことを改めて思い知らされた論文でした。

■参考文献
1) 讃井將満「sepsisと凝固異常」INTENSIVIST Vol.1 No.2. p296-300.

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コメント

レポートありがとうございます.
少しだけ気付きです.
くつな先生がふれられているEGDT(early goal directed therapy)ですが,実はこちらのデータも疑問視されています.
単施設のデータであること,またEGDT治療群の死亡率がPROWESS試験のコントロール群程度でしかないこと,などが指摘されています.
つまり単施設内でバイアスがかかり,コントロール群の治療がなおざりになりすぎているための有意差ではないか?というものです.
そのためこちらも多施設研究でProCESS studyというものが開始されているのですが,5年くらい前に聞いたきり,結果については音沙汰がないようです.
こちらの方はどうなるのでしょうか?
PreSEPカテーテルはかなり売れた気がします・・・

EGDT先生
なるほど・・・EGDTもけっこう怪しいんですね・・・。
こうなってくると敗血症治療の何を信用すればいいのか分からなくなってきますね。
ProCESS studyの結果が気になるところですが・・・。
ご教示ありがとうございました。

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