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2012年3月 9日 (金)

外注細菌検査の限界

ゲストライターであることを最近忘れつつある市立奈良病院の忽那です。

さて、市立奈良病院の細菌検査は外注です。
「おいおい〜、感染症科があるのに細菌検査は外注かよ〜」と誰しもが思われると思うのですが、外注です。
でも院内に細菌検査室がないからこそ当院の研修医は自分でグラム染色をすることによりGBM(Gram stain Based Medicine)が根付いているわけで、デメリットばかりではないと思うんですが、今回は自分の感じた外注検査の限界についてのお話です。

先日、市中肺炎の症例を研修医と一緒に診ていました。
関節リウマチでPSL 5mg/dayと生物学的製剤を投与中の症例ですが、グラム染色はこんな感じでした。

H_influenzae2
H_influenzae

そうです、インフルエンザ桿菌です。
というわけで、研修医が不安そうな顔で「先生・・・細胞性免疫不全の患者ですが大丈夫でしょうか・・・」というのを「オレの生き様をよう見とけ!」と振り払いGBMに忠実に感受性結果が出るまではCTRXを開始していました。
CTRX開始後、明らかに患者さんは良くなっていたんですが、数日後感受性の結果が帰ってきました。

Img_1777

何かお気づきでしょうか。
そうです・・・インフルエンザ桿菌がセフトリアキソン耐性なんです!
インフルエンザのβラクタム系への耐性機序に関しては、βラクタマーゼによるもの(BLPAR)とβラクタマーゼを介さないPBPs遺伝子変異によるもの(BLNAR)が知られているわけですが、どちらもCTRXは有効なはずです。
インフルエンザ桿菌がCTRX耐性になる機序って何なのよ。
少なくとも自分は「インフルエンザ桿菌はセフトリアキソンで間違いなく治療できる」と考えていました。

日本化学療法学会のサーベイランスによると、インフルエンザ桿菌173株は全てCTRXのMICが1以下であり全てCTRX感受性と判定されています。

Nationwide surveillance of bacterial respiratory pathogens conducted by the Japanese Society of Chemotherapy in 2008: general view of the pathogens' antibacterial susceptibility. J Infect Chemother. 2011 Aug;17(4):510-23. Epub 2011 Mar 17.

ということは・・・ま、まさか日本初のCTRX耐性インフルエンザ桿菌?
すわ!回帰熱に続いて日本初コンボが炸裂しちゃうのか、オレ!?

などと興奮していましたが、とりあえず気を落ち着けて外注先に感受性検査方法を聞いてみると、ディスク法で行ったとのこと。
CLSI M100ではCTRXは"S"のみのdisk径しか示されていませんが、今回は25mmだったのでR判定としたとのことでした。
な〜る・・・でもひょっとしたらディスクの劣化とかあるかもしれないので、ディスク法での再検査と検査法を変えて微量液体希釈法もしくはEテストでも検査を依頼してみました。

すると結果は、ディスク法では2回目もやっぱりR判定。
でも微量液体希釈法ではなぜかMIC 0.12でドS!
これは一体・・・。
よくよく調べてみるとCTRXのディスク自体が劣化していることが原因で、CTRXが耐性と出たのではないかという結論に達しました。

忽那が愛読している細菌検査技師さんのブログ「双月庭園 跡地」にこのような記載がありました。以下引用です。

一般的に、βラクタム薬は劣化が早く、その管理に気を使わなければならないとされていますが、やはりわりと厳密に管理しないといけないようです。困ったことに、湿気を吸うと一気に劣化するらしく、冷蔵庫の性能、開け閉めの頻度、おいてある場所などの環境次第で、速やかに劣化し、あっという間に管理限界を超えてしまうこともあるようす。一般的に開封後一週間で使い切りなさいとなっていますが、日常的にディスク法を用いている施設でなければ、使い切ることは不可能でしょう。冷蔵ではダメになりやすいようなので、ウチではすべてのディスクを冷凍保存することを考えています。

ということで、βラクタム薬のディスクは劣化しやすいそうです。
非常に勉強になりました。

さて、このように細菌検査室のクオリティコントロールが不十分である場合に、自院の細菌検査室であればある程度感染症医は介入できるかもしれません。
しかし、当院のように外注先の細菌検査室のクオリティコントロールに介入するのはなかなか困難な問題ではないかと思ってしまいました。

そもそも、インフルエンザ桿菌のCTRXの感受性がRだった場合に、そのまま結果を返すのではなく「これは何かおかしい」と気づき再検査を行った上で報告をしてほしかったなあ・・・と思うんですがそれは高望みというものでしょうか。
しかし(岩田先生風に言えば)それがプロの矜持ではないかと私は思うのです。
「インフルエンザ桿菌のCTRXの感受性がR」という結果が臨床に与えるインパクトを考えると、それくらいやって欲しいよなあ・・・と個人的には思いました。
外注というシステム上、それを細菌検査技師さんに求めるのは酷なのかもしれませんが・・・。

先日、グラム染色カンファレンス@神戸に参加してきましたが、兵庫の細菌検査技師さんたちの臨床への前のめりなコミットメントに胸が熱くなりました。
やはりこれからの細菌検査技師はいかに臨床に前のめりになるかではないでしょうか。
これまでのように検査をして結果を返していれば良いという時代ではないと思うのです。
当ブログの管理人が先日某所で「細菌検査技師さんがよく『臨床の場では・・・』という言葉を使うけど、細菌検査室も現場なんです!そこんとこよろしく!」と熱く講演されていましたが、全くもってその通りだと思います。
外注の検査室には宿命的に「現場感覚」が足りず(これはシステムの問題だと思います)、今後の日本の感染症診療がハッテンしていく上で必ずや障害になるのではないかと思います。

というわけで、この1件では外注の細菌検査室というシステムの限界を感じました。
幸い、当院ではようやく満願成就して自前の細菌検査室を作っていただけることになり、来年1月から稼働することになりました。
これで心置きなく市立奈良病院を去れるというものです。
感染管理加算や細菌検査の点数が大きくなってきている昨今、以前のように「採算が取れないから」という理由で外注にした施設ももう一度検討し直し、自前の細菌検査室が今後増えていけば良いなあと個人的には思います。

今回は内容が内容だけに、ついつい熱くなってしまいました・・・。
もちろん外注の細菌検査にも良いところはあるのではないかと思います。
ご意見などありましたらぜひお願いいたします。

最後に告知ですが、明日3月10日(土)にIDATENケースカンファレンスが開催されます。
当ブログ管理人も成人例のオーガナイザーをされるようです。
今回は初の大阪開催とのことです。
お時間のある方はぜひぜひご参加ください。
20120310case28

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感染症」カテゴリの記事

コメント

 すっごいですね。僕なんか、ええっ、ロセフィンだけ効かないなんてことがあるんだ~っ、 と思うだけでスルーしてしまいそうです。まさか、ディスクの劣化だなんて・・・
 外部委託先に、単に検査費用が安いからって言うだけで決めてしまうと、痛い目を見そうですね。でも、そもそもそんな検査室の実情をどうやって見分けるのか・・・難しい。
 オーダーしている側が一つ一つの検査の内容について色々勉強して、疑問をぶつけたり、この結果はおかしい、と問い合わせたりすることで緊張感が保てるのでしょうか。それにしても、そこまで深い理解にたどりつくのはなかなか簡単にはいきませんね。

三省先生
おっしゃるとおり、スルーしちゃうことが多いかと思います。
実はここには書きませんでしたが、この症例の前に調べてみるとCTRX耐性のインフルエンザ桿菌という結果が帰ってきている症例がありましたが、自分はスルーしていました。
外注の検査結果を第三者的に評価するのは簡単ではないと思いますが、評価できる機関がどこかにないとどんな結果でも鵜呑みにしてしまう危険もあるかと思いこのエントリーを書いてみました。
なかなか難しい問題だと思いますが。

 一つ、感受性ついでに、ご存知でしたら教えていただけますか。
 地域でのH.influenzaeの耐性状況と感受性結果を、当院外来で培養した結果をもとに纏めてみましたところ、BLPARにおいて、ほぼすべてがCVA-AMPCなら感受性なのに、SBTPCでは耐性だった、という結果を得ました。なぜでしょう?βラクタマーゼ阻害剤配合されていれば、BLPARならば効いてもいいはずなのに、どうしてここまでSBTPCが効かないのか。ベースのペニシリン系がABPCだから多少効きにくいのなら納得いきますが、SBT配合されているのに、どうしてこんなにも感受性結果が悪いのか。上手く説明はつきますか?

三省様
横から失礼します.いくつか質問です.
(1)SBTPCとは,経口薬のユナシンのことでしょうか.それともSBT/ABPC,つまり静注薬のユナシンのことでしょうか?
(2)CLSIのブレイクポイントですが,SBT/ABPCなら≦2/1でS,≧4/2でRとなっており,またCVA/AMPCなら≦4/2,≧8/4でRとなっています.また「I」の定義はありません.ご検討はこのブレイクポイントで行われておりますでしょうか?

薬剤感受性試験における悩ましき細菌その名は H.influenzae!

大阪で細菌検査技師をしている者です。
失礼ながら先生の出した、CTRXのディスクが劣化していることが原因で、CTRXが耐性と出たのではないか?という結論は間違いです。

いくら、βラクタム薬は劣化が早くとも、ディスク製造メーカーはそのマージンを考慮して使用期限を設定しているはずです。

しかも自院の細菌検査室であまり使用しないディスクであれば、検査値に影響するような期限切れディスクであっても、参考値として使用せざるをえない場面もあるかも知れません。(商品発注から届くまで約1週間近くかかってしまううため)

しかし今回の事例は
1・外注検査センターである事
2・薬剤がCTRXの様に使用頻度の高い薬剤である
以上を考えると、オーダー時、そして再検依頼時に使用したディスクが、同ロット同ステックだったとは考えられないと思います。

つまりこの問題は、QCにあるのではなく、細菌検査技師の知識にあるのです。

H.influenzaeは薬剤感受性試験における悩ましき細菌です、それはディスク法においても微量液体希釈法にしても、ブレイクポイントの判定が非常に曖昧な所にあります。

ディスク法では、明らかな阻止円を作らず漸減的な性情を示すため、何処の内径を測ったら良いのかを迷います。
微量液体希釈法では、非常にクリアなニューキノロンやMINOに基準を合わせるとβラクタム系は、耐性と判断してしまいます。

実際に細菌検査室のある病院にお勤めの先生であれば、一度、薬剤感受性試験に挑戦してみては如何でしょうか?

大多数の先生がCTRX耐性H.influenzaeを製造?されると思います。

ロセフィン(CTRX)やセフォタックス(CTX)耐性 H.influenzaeが蔓延する理由はココに有ります。

先生ご指摘のとおりインフルエンザのβラクタム系への耐性機序に関しては、βラクタマーゼによるもの(BLPAR)とβラクタマーゼを介さないPBPs遺伝子変異によるもの(BLNAR)が知られているわけですが、どちらもCTRX CTXは有効です。

もし、ロセフィン(CTRX)やセフォタックス(CTX)耐性 H.influenzaeに遭遇された時には以上の事説明され、外注業者、細菌検査技師を啓蒙 教育されるようお願いします。

なお 検査で使用される薬剤は、経口薬 静注薬 ジェネリックの区別は有りません。
あくまで、純正品で添加物の無い、抗生剤+βラクタマーゼ阻止剤となります。

ナニワのバイキン技師さん

なるほど。
ご指摘ありがとうございます。
ウチではディスクの劣化という結論になっていたんですが、実は検査技師の実力ということなんでしょうか。
どちらかというとそっちの方が悲しい結論なわけですけども。
外注先にもフィードバックさせていただきます。

別に外注先が悪い訳ではありませんし、外注化しないといけない病院経営に問題があるか、しっかりとトレーニングされている委託先を選定して外注先を検討していないことが問題かもしれません。あくまでも外注って自院で出来ないからするのであって、外注が無いとやっていけない日本の医療体制自身が問題かもしれませんね。話題から少し外れますがHLARの検査なんかしてくれない外注先は山ほどあります。

外注でも外注じゃなくてもどっちでもいいですが,お金をもらって検査してるんだろうから,プロとしてちゃんとした結果を返して欲しい.それが忽那君が文中で書いている「プロの矜持」というものではないだろうか.

セフトリアキソンがRになってるからという理由で,(本当は有効な)セフトリアキソンではない別の薬剤を使用して,患者に何かあったらどうするんだ,というクレーマー的なコメントをしたくなるが,実際にそれに近いことを見聞きしている.「S」と返すにせよ,「R」と返すにせよ,臨床現場ではそれに基づいて,時にはかなりクリティカルな選択が行われているということを知って欲しい.

病院勤務の医師がお試しでやって製造されるCTRX耐性インフルエンザ桿菌と,プロがやって製造されるCTRX耐性インフルエンザ桿菌は,次元的にはまったく別の話.前者は許されるが,後者は許されない.

話が飛ぶけど,そういう意味では,医師がお試しでやるグラム染色には私は懐疑的.

管理人さま

そうですね。プロフェッショナルとしての見解を持って感受性結果を報告するってことの大事さは現場の医師が痛切に感じていることだと思います。このような??の報告の場合は疑義申し立てをすべきだと思います。当院ではどうでしょう。一次的にこのような結果を入力欄しようとするならキーボードにビリビリと電気が走る仕組みになっています。電撃イライラキーボード搭載しております。ってのは嘘ですが、入力が完了出来ないようなチェックデジットを搭載しております。当然、グラム陽性菌のVCMも同じ仕組みで、結果解釈をしっかりするようにという事にしています。
当たり前ですが、当たり前に出来ないラボは幾つもあります。臨床で例えて言えば、偽膜性腸炎に下痢止め処方するようなものかなと思います。
検査にも薬剤のように疑義紹介出来るシステム構築は早期に必要だと思っています。我々の指導不足でもあります。申し訳ない。

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