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2012年1月14日 (土)

喀痰採取への道 その2

市立奈良病院の忽那です。
今更ですがあけましておめでとうございます。

喀痰採取の方法」というエントリーを書いて早1年。
しかし相変わらず私は喀痰を上手く取れずに悩んでおります。
痰を採取してもおよそ半分くらいは不良検体であり、高張食塩水ネブライザーに明け暮れる日々であります(それでも良質な検体が取れないこともしばしば)。
文献的にも市中肺炎で入院した患者の40〜60%は喀痰を自己喀出できず、喀出できるものも45〜50%は鼻咽頭のコンタミネーションであり不良検体と判断されると言われています(参考文献1~3)。
IDSAガイドラインでは「そんなに不良検体が多いんだったらもう肺炎で喀痰なんか取らなくてもいいよ」としており喀痰の評価は低いわけですが、喀痰には無限の可能性がある・・・そう私は信じています。
というか、喀痰グラム染色で起炎菌を特定できたときの快感は何者にも代えがたいわけです。

そんな喀痰採取について思い悩んでいる中、ふと女性の喀痰って良質検体が少ないことに思い当たりました。
ただの気のせいのような気もしますが、調べてみたらこのような文献が見つかりました。
市中肺炎ではなく結核の研究ですけども。

Improvement of tuberculosis case detection and reduction of discrepancies between men and women by simple sputum-submission instructions: a pragmatic randomised controlled trial.
Lancet. 2007 Jun 9;369(9577):1955-60.

■BACKGROUND:
・いくつかの状況においては、結核が疑われる女性は男性に比べ塗抹陽性が少ない。
・女性では不良検体が提出されることが多いのが理由の一つと考えられる。
・我々は実利的なRCTで、女性患者における喀痰排出の教育による効果の評価を行った。
■METHODS
・結核を疑われてパキスタンのRawalpindiにあるFederal Tuberculosis Centreを受診した1494人の女性および1561人の男性を、ランダムに「喀痰排出トレーニング」を行う群と「普段どおりに喀痰を出す」群とに割り付けた。
・133人(4%)が参加拒否した。
・主要評価項目は教育された群とされなかった群における塗抹陽性の女性の数とした。
・ITT解析した
■FINDINGS:
・訓練された女性ではされなかった女性に比べ塗抹陽性患者が多かった(Risk ratio 1.63 [95% CI 1.19-2.22])。
・訓練は塗抹陽性率増加 (58 [8%] in controls vs 95 [13%] in the intervention group; p=0.002)、唾液の提出率減少 (p=0.003)、早朝検体の増加 (p=0.02)に関連していた。
・男性では、訓練によって塗抹陽性率や検体の質に差は認められなかった。
■INTERPRETATION:
・Federal Tuberculosis Centreでは、女性の塗抹陽性率が男性より低いのは不良検体を提出しているためであったと思われる。
・短時間の訓練で女性の塗抹陽性は大幅に増加した。
・喀痰排出ガイダンスは途上国においては費用効果が良く、男女の塗抹陽性率の差を是正することができるかもしれない。

パキスタンはイスラム教徒の方が多いので宗教的なアレも関係しているのかもしれませんが、僕のスカスカの脳での解釈では「女性が痰を出すなんてはしたない・・・私は唾液を出すわ」ってことで良質検体が少ないのではないでしょうか。
これは日本人女性の考え方にも当てはまるところがあるように思います。
僕はそういう奥ゆかしさは嫌いではないです。まあどちらかと言うと好き・・・かなあ。・・・いや、正直に言って大好きです!
でもそれとこれとは話が別で、検体は検体としてちゃんと出してほしい。
これは我々感染症医にとって、何とかしないといけない由々しき問題です。

ここからは私の妄想ですが、「痰を出すことがはしたない」という考えは男性(というかパートナー)からの視線を気にしているためだと思われます。
女性から良質検体を採取するためには「たとえどんなに黄色い痰を出しても君への思いは変わらないぜ」という、決して揺らぐことのない深い愛情を持つパートナーの存在が必要不可欠なのではないでしょうか。
女性の喀痰に不良検体が多いのには、男性側の責任もあるのかもしれません。

喀痰の話から急に「オーラの泉」みたいな話になだれ込みましたが、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

■参考文献
1)Rosón B, Carratalà J, Verdaguer R, et al. Prospective study of the usefulness of sputum Gram stain in the initial approach to community-acquired pneumonia requiring hospitalization. Clin Infect Dis. 2000 Oct;31(4):869-74.
2)Miyashita N, Shimizu H, Ouchi K, et al. Assessment of the usefulness of sputum Gram stain and culture for diagnosis of community-acquired pneumonia requiring hospitalization. Med Sci Monit. 2008 Apr;14(4):CR171-6.
3)Musher DM, Montoya R, Wanahita A. Diagnostic value of microscopic examination of Gram-stained sputum and sputum cultures in patients with bacteremic pneumococcal pneumonia. Clin Infect Dis. 2004 Jul 15;39(2):165-9.

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感染症」カテゴリの記事

コメント

女性は咳を慎むためにNTMが多いとか,排尿を我慢するためにUTIが多いとか,確かに慎みのために罹患する病気がありますね.
確かに年頃の患者さんに下痢便を提出してもらうのはこちらも恥ずかしく感じるときがあります.検体搬送は黒色の中が見えない袋にしたほうがいい,という意見も聞いたことがありますが,一方で中が見えないのは困りますしね.

私も患者へ集団指導をしてますが、女性や高齢者は指導してもちゃんと喀出出来ない事が悩みです。いっそ筋トレしてくれないか?と思います。

今日の記事をたいへん興味深く読ませて頂きました。(私は医師ではなく、感染症患者の方なんですが)
はい、結核患者(女)です。
痰を出すのはほんとたいへんでした。

今も治療中ですが、服薬開始から3ヶ月以上経っており、痰が絡むこともなく、全くでないので、朝の胃液を採取して検査をしていますが、咳が出て痰が絡んでいる時でも、なかなか出てこなくて苦労しました。

一人暮らしでパートナーの目が気になることもなく、生まれた時のアメリカ大統領がJFKだったという年齢で、恥ずかしいとか、そういう事で痰が出せなかった、ということはありません。

私が思うに、一般的に女性は男性と比べ、痰を吐くことに慣れていない事が多い、ということはないでしょうか?
私は半世紀近く生きてきて、痰を吐いたのは、この病気になって初めてです。

結核とわかる前は、肺がんか?と疑い、自宅で出来る肺がん検査キットを取り寄せ、痰を取ろうと頑張ったのですが、全然だめで諦めました。
私も、からんでいる痰をなんとか排出したかったんですが。。。(素人が考えですが、やはり体が悪いものを排出しようと痰を作っていると思いますので)

すみません、長くなりましたが、トレーニングで痰がちゃんと取れるようになるのは素晴らしい事だと思いました。
空気感染してしまう病気ですから、しっかり検査する事が必要ですもんね。

あんず様
ブログ管理人では無く、単純な愛読者です。主に結核菌を見つける仕事(検査)をしております。結核病院でもあるので患者指導も定期的に行っています。内容を少し話ししますが。

1)結核菌の検査といっても、スライドガラスに塗る塗抹検査、培養といって人工的に結核菌を目に見えるように育てる検査、結核菌特有の遺伝子を検査するPCRというものがあり違いを話。
2)塗抹とPCRは即日結果報告出来るが、塗抹だけでは結核菌かどうか判断するのが難しい。PCRは生きている菌かどうかの判断は出来ない。
3)培養は時間がかかり、結核菌の場合は最短で2週間かかってしまう。
4)痰は日中の何時でも、良い痰(膿みの多い痰)であれば良い。
5)良い痰を出せば、結核菌を検出する可能性が上がる。
6)結核菌を検出する理由は、治療をしている薬に効果があるかどうか判断するために感受性検査というものをするので必ず必要。また、接触者として家族や友人、会社の人など発症予防のため服用している薬が有効かどうか確認するため。
7)感受性検査で見るかる耐性菌というものがあり、見つかる頻度、出てくる理由、見つかった場合の治療方針の説明などをします。決められた薬をしっかりと決められた間服用することの大切さ。

などを話しています。
治療をしていると当然治る過程の中で咳や発熱などの症状は無くなっていき、痰も出にくくなります。元々、痰が出難い人にとっは非常に辛い思いをさせますが、しっかり治せば大丈夫と思いますので頑張って欲しいといつも言葉を投げかけています。中々、内容が難しいのですが、患者さんにとって一番良い治療方針を毎日考えております。

痰を出すには、痰があるという認識が大事で、リラックスして、深呼吸したり、軽めの運動(身体をねじるなど)をしてから出すと良いと言われます。

長文すいません。

師範手前様、

コメントありがとうございました。

私の場合、薬がよく効いているようですが、肋骨辺りに結核性腫瘍が出来ていたので、治療(服薬)期間は9ヶ月と長めなのがつらいとことです。(薬は出来れば飲みたくない方でして)

管理人様、
昨年から感染症にかかる人が激増しているようですね。みなさま、どうぞご自愛下さいますように。(あ、患者の私が言うのもおこがましいですが、、、)

師匠、ありがとうございました。
忽那の出る幕なし。

喀痰の喀出は医療者にとっても患者さんにとっても大変ですよね。
患者さんにとっては「出ねぇモンは出ねぇし!」って言いたいだろうし、医療者側からしたら喀痰出さなきゃ抗菌薬行けないし。
僕は患者さんに頑張ってもらってそれでも出ないってなったら早々に吸引しちゃいます。(抗菌薬早く投与してあげたいという欲が抑えきず…)
でもやっぱり吸引した時の方が良い痰が出ない気がします。
コレダっていう良い方法が無いものでしょういか…

誤嚥性肺炎の診断を吸引痰と喀痰の違いでどうなるか?データ出ました。土曜日に発表予定です いえー!

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