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2011年10月14日 (金)

高齢者の発熱

Photo 市立忽那病院の奈良です。

職業がら発熱患者をたくさん診る機会があるわけですが、その一方で発熱を伴わない高齢者の肺炎なんかもよく経験しますよね。
普段から「高齢者の感染症は発熱を伴わないことがあるから注意しとけよ、おまえら」などと調子こいて研修医たちにアレしているわけですが、その病態については「高齢者は感染してもあまり熱産生できないから発熱を伴わないことがあるんだろうなあ・・・」などと、なんとなく考えていました。

しかし先日、風邪症状で受診した高齢者を診察しました。
80代の女性が鼻汁・咽頭痛・咳で受診。
体温は36.5℃なので発熱はないなと思っていましたが、彼女は「私は平熱が35℃くらいなので、いつもよりずいぶん高くてしんどいです」と言います。
このように「平熱より高い」とおっしゃる患者さんはよくいらっしゃいますが、この「平熱よりどれくらい高いか」という点はこれまではあまり重要視していませんでした。
この患者さんを診察しているときに、ふと思ったのですが、もしかして高齢者は平熱が低いから、発熱疾患に罹患しても発熱と認識されないのではないでしょうか。
やべえ・・・宇宙の真理に気づいちゃった。

えーと、皆さん「そんなこと当り前じゃん」とか思ってらっしゃいますでしょうか。
だって今まで誰も教えてくれなかったし・・・。

というわけで、本日は高齢者の平熱と発熱について調べてみました。
まずは平熱について。

■平熱
・体温は前視床下部に位置する体温調節中枢が調節している。視床下部の体温調節中枢が筋肉や肝臓の代謝活動による熱産生を、皮膚や肺による熱放散で調節しているため、体は普段かなり安定した体温を保持している。
・37℃という体温を多くの医師や医療従事者は平熱とみなしているが、「平熱」には幅があり個人個人によって異なる。
・健常人の口腔体温についての最も大規模な研究の一つでは、平均の体温は36.8℃であり、ちょうど37℃だったのは8%のみだった(JAMA 1992; 268:1578-1580.)。
・体温は日中も変化し、朝6時に最も低くなり、16時から18時にピークとなる。この上記の研究における体温の変動幅は平均0.5℃で、0.1~2.4℃の範囲で変動がみられた。女性は男性よりも平均体温が高い傾向があった(36.9℃ vs 36.7℃)が、日中の変動幅は大きくなかった。
・発熱疾患からの回復期にある人では日内変動は1.0℃ほどになる。発熱疾患に罹患している間は最低体温と最高体温の変動は保たれるがベースラインが高くなる。
・月経中の女性では、排卵前の2週間は朝の体温が低く、排卵から月経までの間は0.6℃ほど上昇する。
・季節性の体温の変動についてもこれまで議論されているが、代謝の変化によるものの可能性があり、一般的とは言えない。
・食後にも体温は上昇するが、これは発熱とは言えない。当たり前だバカヤロー。
・妊娠や内分泌機能不全も体温に影響を及ぼす。
・体温の日内変動は幼児期早期に定着するようである。

「ふーん」って感じですね。
次に高齢者の平熱に関する一般的な知見について。

■高齢者の平熱
・高齢者では発熱を起こす能力が障害されると言われており、高齢者の平熱は若年者に比べ低い(Am J Med Sci. 2001 Aug;322(2):68-70.)。したがって高齢者では重症感染症であっても微熱程度の発熱しか呈さないことがある。
・ WunderlichとSeguinは高齢者は若年者に比べ体温が低いと信じていた(New York: William Wood; 1871.)。そして彼らの見解はLancetに1948年に掲載されたHowellらの報告によって裏付けられた(Lancet.1948; 1:517-518.)。
・高齢者では自律神経の老化による様々な影響のため体温調節機能が障害されていることを示唆するデータも報告されている(Neurobiol Aging. 1982 Winter;3(4):299-309.)。
・最近の研究でも健康な高齢者(平均年令80.3歳、62~99歳)は健康な若年者よりも平均深部体温が低かったと報告されている(New York: Raven Press; 1991:233-242.)。この研究では、口腔、腋窩、直腸の体温を同時に測定して比較したところ、高齢者では口腔と腋窩では平均体温が低かったが、直腸温では高齢者と若年者では同程度であった。

高齢者は熱産生能が障害されており平熱は若年者よりも低い傾向にある、と。
したがって重症感染症であっても(我々の定義上の)微熱しか呈さないことがある、と。
やっぱり忽那の思った通りであります。
ちょっと真理に近づいてきてます。
さらに高齢者の発熱についての、レビュー(Clin Infect Dis. 2000 Jul;31(1):148-51.)を見つけたので読んでみました。

■高齢者の発熱
・大雑把に言って、高齢者の細菌/ウィルス感染症のうち20〜30%は発熱が全くないか微熱程度しか認められない。
・菌血症、心内膜炎、肺炎、髄膜炎ではそれぞれ若年者よりも高齢者の方が体温が低かった。
・胆嚢炎、腸管穿孔、虫垂炎でも平均体温は37.5℃を下回った。
・ある老人病院の発熱疾患の平均直腸温は38.1℃だった。この研究では発熱の定義を直腸温で37.8℃以上としていた。38.5℃以上の患者は全体の8%に過ぎなかった。
・111人の老健施設入居者を対象とした前向き研究では、口腔温37.8℃以上を発熱と定義した場合に感染症に対する感度が70%に上昇した。閾値を38.2℃にした場合、感度は40%に下がった。閾値を37.2℃にした場合、感度は83%に上昇したが特異度は89%に下がった。38.5℃を閾値にした場合は特異度は99.7%と高く、37.8℃を閾値にした場合は98.3%であった。
・以上のデータによると、高齢者施設では感染症を疑う指標として口腔温37.2℃以上、または平熱よりも1.3℃以上高い場合とすると良い。
・汗腺や血管運動の反応の減弱だけでなく、発熱物質(IL-1、IL-6、TNF)の産生量や反応性が減少することで、感染に対する反応が若年者よりも減弱すると考えられている。
・1200人以上のADL自立した高齢者を対象とした研究では、口腔温が38.3℃以上ではほとんどが細菌/ウィルス感染によるものであった。感染によって、発熱または少なくとも平熱に比べて体温の上昇がみられた。しかし、若年者の発熱のほとんどが良性のウィルス感染症であるのに対し、高齢者では38.3℃以上の発熱の多くが重篤な細菌/ウィルス感染症であった。

このレビューをまとめると「高齢者では発熱の閾値を低くした方がいいよ!」ということでしょうか。
発熱物質の産生量の減少、発熱物質に対する反応性の低下などのため、若年者よりも発熱の程度が減弱する、と。
平熱と比べてどうこうということについてはあまり言及がなかったんですが唯一「平熱よりも1.3℃高ければ感染症を疑いなさい」という記載はありました。
このレビューを参考文献に挙げているIDSAの高齢者施設入居者の発熱ガイドラインでも、

Fever defined as;
1)Single oral temperature >37.8°C (>100ºF)
2)Persistent oral or tympanic membrane temperature ≥37.2°C (99.0ºF)、Rectal temperature ≥37.5°C (99.5ºF)
3)Rise in temperature of ≥1.1°C (≥2°F) above baseline temperature.

とされており、平熱よりも1.1℃以上高ければ発熱ですよ、と定義されています。
やっぱり絶対値だけでなく、平熱からどれくらい高いか、というのも重要なんだな・・・今までスルーしてきた患者さん、本当にすいませんでした!

その後、宇宙の真理を知ったサイババのような気分でチャクラ全開で徳田安春先生の「バイタルサインでここまでわかる!OKとNG」を読んでいたんですが、この中で徳田安春先生と聖路加国際病院の日野原先生が対談されていました。
そしてなんとこの中で日野原先生が 

発熱が37℃以上というのは誤解である。
私の体温は朝起きたら35.3℃くらいなので、36℃以上になったら発熱です。
私の体温が36.5℃というと、子どもの38℃にほぼ匹敵することになります。
老人の無熱性肺炎というのは間違いで、ほとんどの肺炎患者は平熱から考えると発熱しているのです。
 

と述べられていました!
僕が必死で調べたことがほんの数行に集約されていた・・・。
こんなにいろいろ調べずに、ここだけ読めば済む話でした。

■本日のまとめ
・高齢者は若年者に比べ平熱が低いので、平熱からどれくらい上昇しているかが重要である
・高齢者は感染症を起こしても発熱に対する反応性が低下しているので、発熱の閾値を低くすることで取りこぼしが少なくなる。

■参考文献
1)Gerald L. Mandell et al. Temperature Regulation and the Pathogenesis of Fever. Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 7th ed.
2)Jonathan Cohen et al. Pathogenesis of fever. Cohen & Powderly: Infectious Diseases, 3rd ed.
3)Wendy Garlington et al. Evaluation of infection in the older adult. UpToDate Online 19.2
4)Norman DC. Fever in the elderly. Clin Infect Dis. 2000 Jul;31(1):148-51. Epub 2000 Jul 25.
5)High KP, et al. Clinical practice guideline for the evaluation of fever and infection in older adult residents of long-term care facilities: 2008 update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2009 Jan 15;48(2):149-71.
6)徳田 安春. バイタルサインでここまでわかる!OKとNG

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