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2011年6月17日 (金)

市中肺炎の病歴・身体所見

忽那@市立奈良病院です。

昨年から研修医の先生に感染症レクチャーを毎週水曜日に1時間程度行っているのですが、これまでの総論や抗菌薬などが終わって、来週からいよいよ疾患毎にしぼったレクチャーになります。

とりあえず市中肺炎からやろうと思っているのですが、昨年使ったスライドだけだと自分的に物足りないので、面白そうな文献を探しています。

僕の山口大学の同級生である山口宇部医療センターの大藤先生と、無類のJOJO好きで知られる山本舜悟先生(すいません、今月までフリーとのことですのでこのような紹介に・・・)の共著「リソース(医療資源)が限られた状況での肺炎診療」を読んで「フムフム、なーる」と思ったので、身体所見とバイタルで肺炎はどの程度まで診断できるのか、について調べてみました。

まずはJAMAの例のRational Clinical Examinationを読んでみました。
この本は以前「名著や!」と興奮し調子こいて勢いで英語版を買ったんですが、サクサク読めないので日本語版も買ってしまいました・・・。

肺炎についての項目はコレ↓です。

Does this patient have community-acquired pneumonia? Diagnosing pneumonia by history and physical examination.
JAMA. 1997 Nov 5;278(17):1440-5.
PMID:9356004

ここでは主にDiehr, Gennis, Singal, Heckerlingらの4つの臨床研究について検討しています
サマリーとしては、

・病歴だけで肺炎を除外できるものはない。
・発熱 80%の患者でみられるが、高齢者ではないこともよくある
・胸痛は30%、悪寒は40-50%、振戦は15%の患者にみられる
・呼吸数>24 は45-70%の患者でみられ、特に高齢者で有用な所見である
・バイタルサインでは呼吸数<30, 心拍数<100, 体温<37.8℃の3つ全てを満たしていれば肺炎の診断に対して陰性尤度比0.18である。
・胸部診察ではヤギ声(egophony)がLR+ 8.6と診断に有用であるが、LR- 0.96であり除外には使えない。

という感じです。
バイタルサインの3項目は除外に使えそうです。
ヤギ音とは「患者にアーと言ってもらいながら聴診するとイーに聴こえる所見」のことであると「Dr宮城の教育回診実況中継」にはありますが、このYouTubeの動画だと「イーと言ってもらってエーと聴こえる」と説明されています。



「アー」と言えば「イー」に聞こえ、「イー」と言えば「エー」に聞こえる・・・実に不思議です。
では「エー」と言えばどのように聴こえるのでしょうか。
かなりどうでもいい疑問ですが。
今度肺炎の患者さんでやってみます。

※山本舜悟先生からご指摘いただきまして、やはり「イーと言ってもらってエーと聴こえる」が正しいようです。いわゆるE to A changeですよね。宮城先生の本は誤植かと思われます。

さて、Rational Clinical Examinationと同じ著者がAnn Intern Medに2003年にも同じようなreviewを発表しています

Testing strategies in the initial management of patients with community-acquired pneumonia.
Ann Intern Med. 2003 Jan 21;138(2):109-18.
PMID:12529093

このreviewでも、病歴や身体所見の陽性尤度比・陰性尤度比が表になっており、分かりやすい感じです。

この2つのreviewに登場するのがDiehrとHeckerlingのスコアリングシステムです。

Prediction of pneumonia in outpatients with acute cough--a statistical approach.
JChronic Dis. 1984;37(3):215-25.
PMID:6699126

■Diehr rule
・鼻汁;-2点
・咽頭痛;-1点
・寝汗;+1点
・筋肉痛;+1点
・1日中痰が出る;+1点
・呼吸数 >25/分;+2点
・体温 ≧37.8°C;+2点

-1点未満:LR 0.22
-1点以上:LR 1.5
1点以上:LR 5.0
3点以上:LR 14

になるそうです。これはなかなか使えそうです。

Clinical prediction rule for pulmonary infiltrates.
Ann Intern Med. 1990 Nov 1;113(9):664-70.
PMID:2221647

・目的;成人の肺炎を予測する臨床所見を検討する
・デザイン;3箇所での有病率研究
・セッティング;シカゴのイリノイ大学の救急科、オマハのネブラスカ大学、リッチモンドのバージニア大学
・患者;臨床徴候、バイタルサイン、基礎疾患、胸部レントゲン結果が記録された(イリノイ大学で1134人、ネブラスカ大学で150人、バージニア大学で152人)。発熱と呼吸器症状があり救急外来を受診した全ての患者で胸部レントゲンが撮影された。
・37.8℃以上の発熱、100/min以上の頻脈、crackle、呼吸音減弱、基礎疾患に喘息がないこと、が肺炎の予測因子であった(P = 0.001)

■Heckerling rule
基準有病率を5%とすると、

①37.8℃以上の発熱
②100/min以上の頻脈
crackle
④呼吸音減弱
⑤基礎疾患に喘息がないこと

の5項目のうち、いくつを満たすかによって


0個 <1%
1個 1%
2個 3%
3個 20%
4個 25%
5個 50%

になるそうです。
DiehrとHeckerlingのruleはけっこう使えるのではないでしょうか。
この2つのruleについて検討した研究もありました。

Comparison of physician judgment and decision aids for ordering chest radiographs for pneumonia in outpatients.
Ann Emerg Med. 1991 Nov;20(11):1215-9.
PMID:1952308

・目的;胸部レントゲンを撮影すべきかどうかの臨床医の判断とDiehr, Singal, Heckerling, and Gennisらのdecision ruleとを比較した
・デザイン;前向きの観察研究であり、呼吸器症状のある患者に対し医師が胸部レントゲンを撮影する前の状況を評価した。全ての患者で胸部レントゲンを含む同じ検査が行われた。
・セッティング:都市部教育病院のERを受診した救急患者
・参加者:急性に咳が出現または慢性咳嗽が増悪+発熱+喀痰/血痰のある成人患者
・結果:290人の患者のうち、21人(7%)が肺炎であった。感度は臨床的な判断(0.86)が他の4つのルールを上回った。特異度はDiehr (0.67), Heckerling (0.67), and Gennis (0.76) rulesが臨床医の判断(0.58)を上回った。正確性はGennis (0.76) and Heckerling (0.68) ruleが臨床医の判断(0.60)を上回った。
・ディスカッション:臨床医の診断と治療の決定は感度が高いが特異度が低かった。2つのdecision ruleは特異度と正確性に優れ、状況によっては有用である。

Rational Clinical Examinationと並んで身体所見の名著であるマクギーの身体診断学(第2版の日本語版が出ました)にもだいたい同じようなことが書いてましたが、尤度比の高い順から

ヤギ声 LR 4.1
悪液質 LR 4.0
気管支性呼吸音 LR 3.3
打診濁音 LR 3.0
呼吸音の減弱 LR 2.3
鼻水なし LR 2.2
37.8℃以上の発熱 LR 2.0
28回以上の呼吸数 LR 2.0
精神状態の異常 LR 1.8
咽頭痛なし LR 1.8

となっております。
ここでもヤギ声、パねえッス(まあ同じ文献を参照しているので当たり前ですが)。
悪液質って、この場合は羸痩と同義語で良いのでしょうか。
これまでのreviewでもそうですが、やはりマクギーでも「肺炎の診断を単独で明確に否定する所見はない(つまりLR<0.5はありえない)」と書かれています。
マクギーの方では、Heckerlingのrule5項目について、感度・特異度・尤度比で記載されています。

①37.8℃以上の発熱
②100/min以上の頻脈
crackle
④呼吸音減弱
⑤基礎疾患に喘息がないこと

の5項目のうち、

0〜1項目 感度 7-29%、特異度 33-65%、尤度比 0.3
2〜3項目 
感度 48-55%、特異度 - 、尤度比 NS
4〜5項目 
感度 38-41%、特異度 92-97%、尤度比 8.2

Rational Clinical Examinationでの「有病率が5%とすると何%」という表現は正直よく分からなかったので、大変ありがたいです・・・。
尤度比 8.2となるとかなり有用っぽいです。

最後に、「Dr宮城の教育回診実況中継には悪寒戦慄について面白い記載があります。
なんと菌の種類によって悪寒戦慄の回数が違うそうです。
PneumococcusMoraxellaは1回、それ以外の菌は複数回であることが多い、と書かれています。
肺炎球菌に関しては藤本卓司先生の「感染症レジデントマニュアル」にも記載があったかと思いますが、モラキセラも1回のことが多いんですね・・・。
この本はreferenceが掲載されていないのですが、起炎菌毎の悪寒戦慄に関する文献を見つけることはできませんでした。
この辺のところはあまりしっかり問診が取れていなかったので、次回から気をつけて聴いてみたいと思います。

というわけで、市中肺炎の病歴・身体所見についてまとめてみました。
肺炎が疑わしい患者の診察において身体所見でどの部分に注意すれば良いのか、という点がより明確になったような気がします。
あまりヤギ声の聴取なんかやったことなかったので、さっそくやってみようと思います。メエ〜。
これを実践して果たして胸部レントゲンを撮らなくて済む患者が増えるかというと、分かりませんが・・・(大丈夫だっていくら言っても胸部レントゲンを撮らないと安心出来ないという患者はけっこう多い気がします)。

2011年6月15日 (水)

Kansen Journalのご紹介

忽那@市立奈良病院です。
IDATENインタラクティブケースカンファレンスは、緊張による嘔気と闘いながらなんとか無事に終わりました。

さて、現在もう一つ進行している企画がありまして、Kansen JournalというIDATENが発行しているメールマガジンにcase reportを掲載していただいております。
全4回の予定で、現在2回目まで発行されています。

Kansen Journal No. 27
周期性の発熱と下肢痛を主訴に受診した20代女性

その1:http://www.theidaten.jp/journal_cont/20110528J-27-1.htm
その2:http://www.theidaten.jp/journal_cont/20110528J-27-2.htm

一応、NEJMのClinical Problem Solvingにインスピレーションを受けて書いてみたのですがいかがでしょうか。
症例の答えは・・・まあ、その、例のアレです。
このブログでも何度か登場した、例の感染症です。
「いつまでそのネタで引っ張るつもりなの?」とか「先生、この患者さんに足を向けて寝られないね」とか「そろそろ患者さんにお金を払った方がいい」とか周囲からも散々言われていますが、聞こえないフリしてまだまだ引っ張り倒そうと思います。
次週配信予定の3回目で大ドンデン返しがあるのでご期待ください。

ちなみにKansen Journalの登録はこちらからできますので、まだ登録されていない方はぜひ(僕のcase report以外は大変充実しています)。

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