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2011年12月 7日 (水)

肺炎球菌は生えてこない(クレイジーダイヤモンドは砕けない的な意味で)

皆さんこんにちは。
ブログは書くけど論文は書かない忽那です。

コソ染め先生の肺炎球菌性肺炎のエントリーを見て、「確かに肺炎球菌って培養で生えないよなあ」と改めて思った次第です。
ウチは微生物検査が外注なので、ますますそうなのかもしれませんが。
現在の病院では肺炎を見る機会が多く、また以前肺炎球菌に関する原稿を書いたりIDATENセミナーでも肺炎球菌をテーマにお話させていただいたこともあるので、肺炎球菌について調べたことがあります。
ちなみに忽那は肺炎球菌のことは愛称を込めてモコッチ☆と呼んでいます(Pneumococciからとっていますが、正しい発音は「ニューモコクサイ」なんだと思います)。

そのモコッチが培養で生えにくい要因の一つはAutolysinと考えられています。
肺炎球菌の病原因子は以下のように非常にたくさんあります。

Photo
■表 肺炎球菌の病原因子 文献1)を元に作成

このうちAutolysinは自己融解酵素であり、病原性の強いPneumolysinを放出することに一役買っていますが、これはモコッチにとっても諸刃の剣であり、自分まで死んでしまうという、ドラクエの爆弾岩で言うとメガンテに相当する酵素であります。
この自己融解酵素のため、モコッチは培養で生えにくくなっているのではないかと言われています(文献2)。
ちなみにモコッチのコロニーがペコッと凹んで見えることがありますが、これはAutolysinによって細胞融解が進んでいる所見だそうです。

Photo_2

もう一つは技術的な問題で、釣菌の段階で失敗することがあるようです。
肺炎球菌は皆さんご存知の通りα溶血です。

Youketu

この写真は、僕が某原稿でWikipediaの溶血の写真を使おうとしたら、管理人K先生が「いやちょっと待て、ウチで作ってもらおう」と言って奈良医大微生物検査室で製作いただいたものです。
奈良医大微生物検査室の皆さん、その節はありがとうございました。

実際に喀痰の培養検査を行うと、どうしても口腔内のviridans Streptococcusが混入します。
喀痰を塗って一晩寝かせた培地はこんな感じになります。

Photo_5

この中で、「おっ、こいつは肺炎球菌かな〜」と思ったものを釣菌するわけですが、コロニー的には他のα溶連菌と区別がつかないため、たまに間違ってviridansを釣ってしまうことがあるわけです。
ちなみに奈良医大の微生物検査室は「ウチはそんなミスはしない!コロニーは慣れれば区別が付く!」とおっしゃってました。これも経験が必要なようです。

Photo_6

左がモコッチ、右がviridansです。
オプトヒン試験で判定することが多いようですが、S. oralisは稀にオプトヒン感受性となることがあり注意が必要です。

さて、では実際にどれくらい肺炎球菌は培養で生えにくいのか。
菌血症を伴う細菌性肺炎であり喀痰グラム染色でも多数の菌を認めるという症例でも、肺炎球菌性肺炎の45-50%は喀痰培養が陰性となるとされています(文献3)。
ちなみにこの参考文献は「肺炎球菌性肺炎の診断に喀痰培養なんて役に立たねえよバカヤロー(The nonvalue of sputum culture in the diagnosis of pneumococcal pneumonia)」という男気のあるタイトルです。
またMusherらの肺炎球菌性肺炎についての研究では、血液培養陽性をReference Standerdとすると喀痰グラム染色の感度は57%、喀痰培養検査の感度は79%であったと報告されています(文献4)。

要するに喀痰培養で生えてこなくても、肺炎球菌性肺炎は全く除外できないということです。
市中肺炎の病原微生物のうち、肺炎球菌は20%前後という報告が多いようですが、病原微生物が不明であった市中肺炎の多くが実は肺炎球菌性肺炎であろうと推測されています。
これは、喀痰培養で生えにくいこと、病原微生物不明の症例の多くがペニシリンで治療されていること、経気管支吸引で採取した報告では肺炎球菌性肺炎の報告が多いこと、菌血症を伴う肺炎の6割以上を肺炎球菌が占めていること、などからのようです。
以前青木眞先生が、市中肺炎の病原微生物は
1. 肺炎球菌
2. 肺炎球菌
3. 肺炎球菌
とご講演でおっしゃっていたように、市中肺炎で肺炎球菌のカバーだけは絶対に外してはいけないというわけですね。

■参考文献
1)Streptococcus pneumoniae: Virulence Factors,Pathogenesis, and Vaccines. Microbiol Rev. 1995 December; 59(4): 591–603.
2)Streptococcus pneumoniae Antigen Test Using Positive Blood Culture Bottles as an Alternative Method To Diagnose Pneumococcal Bacteremia. J Clin Microbiol. 2005 May; 43(5): 2510–2512.
3)The nonvalue of sputum culture in the diagnosis of pneumococcal pneumonia. Am Rev Respir Dis. 1971 Jun;103(6):845-8.
4)A. Diagnostic value of microscopic examination of Gram-stained sputum and sputum cultures in patients with bacteremic pneumococcal pneumonia. Clin Infect Dis. 2004 Jul 15;39(2):165-9.
5)Pneumococcal pneumonia in adults. UpToDate 19.3

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コメント

うちは12.5%で陰性でした。自己融解するものがありますので血液培養陽性でも菌が分離出来ない場合もあります。医師からは技術が悪いんだと思われないかドキドキです。

オプトヒン感受性試験はペニシリン耐性菌の影響で耐性化する肺炎球菌が混じり特異度が教科書通りに行きませんので、うちでは胆汁溶解試験を指標にしています。ラテックス法の肺炎球菌抗原同定もありますが、false positiveが多いので使いにくい検査です。
どちらにしても肺炎球菌は検出と同定は難しいのを分かって欲しいんですがね。

師匠

ありがとうございます。
やはり肺炎球菌は生えにくいんですね。
西神戸では胆汁溶解試験を使われているんですね。奈良医大はオプトヒンのようです。

はじめはグラム染色で肺炎球菌が見えてるのに、菌が生えてこない!何でだ!って思ってましたが、そういうものなんだと思えば生えなくても気にしなくなりました。
でもやはり生えれば嬉しいですが。

勉強になります。
こうして見るとグラム染色で陽性双球菌見つけてPCGってちょっと怖く思えてきました。(培養がゴールドスタンダードにならないとしたらグラム染色の感度、特異度の根拠がない訳で…)
経験的には大丈夫なんでしょうけど。
PCGをFirst Choiceにした症例が抗菌薬を変えずに治療完了する確率ってどんなモンなんでしょうかね?
ちょっと調べてみようかなぁ…
もし良かったら、くつな先生の治療成績というか印象を教えて下さい!

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