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2010年3月 2日 (火)

ワクチンに思う

このことについては以前から書こうかどうか色々と迷っていたのですが、やはり現時点での自分の考えをまとめておこうと思い、思い切って書いてみます。

「ワクチンについては、日本はすごく遅れていてアメリカは素晴らしい」という論調の議論が様々なところで行われているのは周知のことでしょう。私も単純にそう思っていました。

ところが、実際にアメリカに住んでみると、「本当にアメリカの予防接種制度は素晴らしいのか」という単純な疑念がわいてきたのです。これは「医学的にアメリカの予防接種制度が正しいのか」という科学的疑問ではなく、単純に住んでみて感じた「体感」レベルの話なのがずっと書くのを迷っていた理由なのですが。

言うまでもなく予防接種は予防医療の代表選手です。それでは予防接種がすすんでいるアメリカでは予防医療がすすんでいるか?とてもそうは思いません。一時、オバマ大統領が炭酸飲料に課税するとかいう話もありましたが、巷には異常なレベルの肥満者がそこかしこにみられます。病棟ラウンドで驚いたのは、既往歴に gastric bypass surgery をもつ患者の多いこと。

予防医学のすすんでいない国なのにも関わらず、採用される予防接種数が多く、肥満を予防するより手術で何とかしようという事実の背景に共通すること。私にはまず製薬会社や医療機器メーカー、そして医療関係者の利益が思いつくのです。そして主なワクチンメーカーは日本というマーケットでは予防接種で利益を得がたいと判断しているのではないか。だから(それは情けないことなのですが)日本では予防接種制度がなかなか前に進まないのではないか。

金になることはどんどんやり、金にならないことは切り捨てる。建前だけではどうしようもなく、こういった医療機器メーカーや製薬会社の driving force に頼っている部分が非常に大きい。データがあるわけではありませんが、アメリカに住むと、これを「体感」する機会が非常に多いのです。

さて、だからといって私は日本の予防接種制度を肯定するつもりはありませんし、いずれにせよ何かしらの改革が日本の予防接種制度には必要だと思っています。

アメリカに住んでいて、日本の感染症診療事情を説明するときに、どうしても「○×という抗菌薬が使えない」とか「日本ではCRPを重要視する人が多い」とか「◎▲というワクチンが手に入らない」とか否定的に説明してしまっている自分に後からすごく後悔します。本当はもっと自慢できることがあるはずなのに。

私が住むフィラデルフィアの隣のニュージャージーにお住まいの冷泉 彰彦さんの「from 911/USAレポート」に、

雑談時のデフォルトはナショナリストで結構。いわれのない自国や自国文化への中傷には徹底抗戦せよ。日本人を "They" と言うな。"We" とハッキリ言え。だが、根拠のある忠告や指摘は感謝しつつ受け入れるべき。

という言葉がありました。とても耳が痛い。そしてその通りだと思う。

日本には日本なりの事情がありますし、そういった事情を背景に日本なりに「頑張って」来たはずです。そして今まさに「日本なりに苦しんでいる」時なのだと思います。「アメリカの予防接種制度を目指す」ことや「日本版ACIPを作る」ことを議論のスタートポイントにするのではなく、「日本の予防接種制度は現在どうなっていて、日本で手に入るどのようなリソースをどのように使えば"もっとよい制度"になるのか」というブレインストーミング的な具体的な議論が必要な段階に来ているのだと思います(その際にACIPなどを参考にするのは全く問題ありません)。そしてそこでは製薬会社や医療機器メーカーとの利益相反を明示しておく。

責任ある立場になればなるほど「色々な立場の人からの意見」を考慮しなければいけないようになります。私は、いま自分がそういった意見をうまく聞き入れる自信がありません。帰国してからどうすればいいのか、本気で悩んでいます。

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