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2010年9月 8日 (水)

院内感染はゼロになるか

もうこの数年間、感染症関係のニュースを見ない日はなくなった、といっても過言ではないくらい、感染症に注目が集まっています。

「院内感染かどうか」「院内感染を否定している」「院内感染の疑いがある」

いろいろな用語が飛び交っていますが、「院内感染」はゼロにできるのでしょうか。

インドやパキスタンから帰ってきた人が、国内の他の患者に耐性菌を伝播させうるというのに、4人部屋の隣の人に菌を伝播させないということがどれほど難しいことか、想像に難くないと思います。

人から人への細菌の移動を本当に防ぎたいのなら、全ての患者を個室にし、全ての患者に一人ずつ医療従事者をつける必要があります。そして全ての患者を入院から退院まで他人との接触がないようにすればいいでしょう。

でも、無理ですよね。医療環境というのは、こういう「条件付き」の環境である、ということをまず理解すべきです。そしてその「条件」は、病院によって、地域によって、国によって全く異なる。

例えばアメリカだといい病院は個室または二人部屋があたり前。コメディカルもたくさんいて、医師・看護師はゆとりをもって仕事ができる。土地が広いから、増床も、特殊な部署も作れる。でも、日本はそうはいかないから一部屋に四人、場合によっては六人?の患者を押し込め、横に広がれないから縦に病院がのびる。医師も看護師も数が少なく、一人で何人もの患者をケアしなくてはならない。

院内での細菌の伝播というのは、何も全てが医療従事者が媒介するとは限りません。検査室に行くまでのエレベーターのボタン、コーヒーショップや売店でのテーブル、共同トイレなど、細菌を保持する患者が触れうるところはいくらでもあります。そこを、医療従事者が後をついてまわっていちいち拭いて回ることなどできるわけがありません。

在院日数も院内での細菌伝播に関係します。3日や4日で退院して後はホテルにでもいてもらえれば、「院内感染」は減るかもしれませんが、そうはいきません。

「でも」日本のMRSA分離率や多剤耐性菌の分離率、種類は少なくとも「アメリカをはるかに上回る」状況にはなっていません。日本人医療従事者は、このような「劣悪な環境」にも関わらず素晴らしい仕事をしているのです。

さて、こういった「条件付き」の中で何か起こったとき、しばしばその条件の中で働いている人間がやり玉にあげられます。でも、本当はその「条件」が悪いのではないでしょうか?働いている人も、本当はもっと「いい条件」で働いていれば、そういうことは起こさずにすんだのではないでしょうか?それならその「条件」を作った人が罰せられるべきではないのでしょうか?

ある事象が善か悪か、「倫理的な判断」と「科学的な判断」を混同してはいけません。「条件付きの環境」であることをまず理解し、その中で何が可能で、何が不可能なのか。起こるとしたら何%まで許容すべきなのか。そういう解釈をしないと、結局「現場にすべて押しつけ」、そして「崩壊する」状況は、これからも(医療現場に限らず)どんどん増えるでしょう。

奈良医大の感染症センターでは、こういった状況に対し、少しでも適切な情報を発信する準備をすすめています(もうしばらくお待ち下さい)。

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